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第50話

****** 次に目が覚めた時には、太陽は既に高い位置にあった。 車の窓から入る眩しい陽射しが、アンジュの顔を照らしていた。 「……っ、眩し……」 「起きた? よく眠れたみたいだね」  運転席から伸びてきたアンバーの大きな手に、髪をくしゃくしゃと撫でられて、アンジュは寝ぼけ眼で運転席へ視線を向けた。 「アンバー……ぜんぜん休憩してないのか?」 「うん。でも、もうノースシストに入ってるよ」 「……え?」  驚いて、アンジュはシートに預けていた身体を起こして、前方に目を向けた。  車は小さな丘から、緩やかな坂道を下っている。  フロントガラスの向こう側には、見たことのない景色が広がっていた。  道路の両脇には田園が広がっているが、ぽつりぽつりと家が建っている。  直線道路の坂道が終わる辺りから、建物が密集しているのが遠くに見える。  あそこがきっと、中心街なのだろう。  イーストシストから519・1マイル。この国の東西南北を結ぶルート005を、ひたすら北へと走ってきた。  イーストシストとは全然違う世界。  北の都と呼ぶには、あまりにも規模の小さい、商業も流通も発達しなかった閉鎖的な街。  この街は、果たして自分たちを受け入れてくれるのだろうか。  二人共、長く続く坂道の先を見つめ、お互いに、暫くの間無言だった。きっとアンバーも同じ事を考えているのだろう。  不意にアンバーの手が、膝の上のアンジュの手に重なった。 「絶対、幸せになろうね」  隣を見上げると、琥珀色の瞳が、ちらりと視線を送ってきて、重ねただけだった手をしっかりと繋いでくる。 「うん」  その手を握り返してアンジュは頷いた。  不安なのは、同じ。だけど、それ以上に二人一緒なら何も怖くないと思うのも、また同じだった。 「アンジュ、見て。向こうに見える山、まだ雪を被ってる」 「本当だ……綺麗だな」  街の向こう側には広大な森。  そして、森と街をぐるりと囲むように、この街のシンボルとも言えるノースシストの山々が連なっている。  その頂を覆う白い雪が、晴れた空に映えて美しく光っていた。 「あの山を越えて、そのずっと向こうの海を越え、もっと北の地域は、ウェアウルフの発祥の地だと伝えられているんだ」  

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