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第50話
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次に目が覚めた時には、太陽は既に高い位置にあった。
車の窓から入る眩しい陽射しが、アンジュの顔を照らしていた。
「……っ、眩し……」
「起きた? よく眠れたみたいだね」
運転席から伸びてきたアンバーの大きな手に、髪をくしゃくしゃと撫でられて、アンジュは寝ぼけ眼で運転席へ視線を向けた。
「アンバー……ぜんぜん休憩してないのか?」
「うん。でも、もうノースシストに入ってるよ」
「……え?」
驚いて、アンジュはシートに預けていた身体を起こして、前方に目を向けた。
車は小さな丘から、緩やかな坂道を下っている。
フロントガラスの向こう側には、見たことのない景色が広がっていた。
道路の両脇には田園が広がっているが、ぽつりぽつりと家が建っている。
直線道路の坂道が終わる辺りから、建物が密集しているのが遠くに見える。
あそこがきっと、中心街なのだろう。
イーストシストから519・1マイル。この国の東西南北を結ぶルート005を、ひたすら北へと走ってきた。
イーストシストとは全然違う世界。
北の都と呼ぶには、あまりにも規模の小さい、商業も流通も発達しなかった閉鎖的な街。
この街は、果たして自分たちを受け入れてくれるのだろうか。
二人共、長く続く坂道の先を見つめ、お互いに、暫くの間無言だった。きっとアンバーも同じ事を考えているのだろう。
不意にアンバーの手が、膝の上のアンジュの手に重なった。
「絶対、幸せになろうね」
隣を見上げると、琥珀色の瞳が、ちらりと視線を送ってきて、重ねただけだった手をしっかりと繋いでくる。
「うん」
その手を握り返してアンジュは頷いた。
不安なのは、同じ。だけど、それ以上に二人一緒なら何も怖くないと思うのも、また同じだった。
「アンジュ、見て。向こうに見える山、まだ雪を被ってる」
「本当だ……綺麗だな」
街の向こう側には広大な森。
そして、森と街をぐるりと囲むように、この街のシンボルとも言えるノースシストの山々が連なっている。
その頂を覆う白い雪が、晴れた空に映えて美しく光っていた。
「あの山を越えて、そのずっと向こうの海を越え、もっと北の地域は、ウェアウルフの発祥の地だと伝えられているんだ」
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