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第53話
石畳の道路を暫く進むと、ペパーミントグリーンで『DINER』と書かれたサインボードが見えてきた。
落ち着いたレンガ造りの建物の中で、その店は唯一プレハブ式で古い時代の列車のような形をしており、このサインボードは、かなり人目を引く。
ダイナーと呼ばれるタイプの店は、普通のレストランよりも、もっとカジュアルなイメージで、ハンバーガーやサンドイッチなどの軽食をはじめ、数多くの種類のメニューがある。ボリュームがあって、安く食べられる事が特徴だ。
アンバーは、その店の前で車を停めた。
「住む所とか仕事とか探さないといけないけど、取りあえず何か食べよう」
「……でもアンバー、ハンバーガーとか、そんなんで足りるの?」
そう言えば、ここに来るまでに食べたのもパンとかピザとかばかりで、あまり量を食べていない。
──もしかしてアンバーは、ものすごく腹が減っているんじゃないか。と、アンジュは内心思っていた。
ティカアニの家にいる時は、アンバーもイアンも、毎日血の滴るような分厚い肉を何枚も食べていた。
その量は、アンジュにとっては驚くほどの多さだった。でも二人は狼なのだ。ウェアウルフである事を知った今なら、納得できるが……。
「ここなら、ボリュームあるし、安いからたくさん注文できるし、大丈夫だよ」
「アンバーがここでいいなら、良いけど……」
「それに僕、家の食事でよく出てた、血の滴るような肉って、実は苦手なんだ。焼き加減はミディアムくらいの方が好みかな……」
「マジか……」
そんな話をしながら、車を降りると、氷のように冷たい風がヒュッと音を立て、身体にぶつかってくる。
「寒っ……」
車の中との温度差に、思わず身震いをした。
気温のせいか、空気が透き通っているように感じる。
「ホント、さすがに寒いね」
二人して寒さから逃れるように、店のドアを開けて店内へと足を踏み入れた。
「……っ」
しかし、一瞬、アンジュは怯んで立ち止まってしまう。
そんなに広くない店内のテーブルは、ほぼ埋まっていて、その客達の視線がいっせいにドアの所に立つ二人に向けられたのだ。
アンジュは、思わずアンバーのジャケットの袖を摘まみ、小さく引っ張った。
「アンバー……やっぱり……」
──他へ行こう……。
そう言いかけた時だった。
「カウンター空いてるよ!」
カウンターの向こうで忙しそうに卵料理をつくっている、この店のマスターらしき中年の男が声をかけてきてくれた。
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