55 / 78
第55話
アンバーは、ハンバーガーに、オムレツ、カリカリベーコン、ソーセージ、ハッシュポテトと、定番メニューを次々に注文して、最後にステーキを2皿分ペロリと平らげた。
「見てるだけで胃もたれしそう……」
「アンジュこそ、そんなのだけで足りるの? ステーキ食べたらよかったのに」
アンジュが注文したのは、パンケーキだけだった。
アンバーが最後に注文したステーキは、本当はアンジュにも食べさせるつもりだったらしい。
「俺は、これだけで十分」
アンジュは、ふわふわのパンケーキに、たっぷりのバターを塗りたくり、メイプルシロップをひたひたになるまでかけるのが好きなようだ。
美味しそうに食べるアンジュの横顔を、アンバーは頬をゆるませながら、じっと見つめた。
「……なんだよ?」
「いや、美味しそうだなーって、思って……」
「アンバーも食いたい?」
「うん、ひとくち」
「いいよ。ほら……」
アンジュは、少し大きめに切ったパンケーキをフォークに刺して、アンバーの目の前に差し出した。
普通にフォークごとアンバーに渡そうと思ったのだ。
だけど、アンバーは手を出さずに、口を大きく開ける。
「あーん」
「なっ?! 何してんだ」
「何って……普通、こういう時は、食べさせてくれるもんでしょ?」
「い、いや、そんな事、普通はしない! しかもこんな所で恥ずかしいだろ!」
顔を真っ赤にして、アンジュはフォークを持った手を、さっと引っ込めようとした。
「あー、もう、なんで恥ずかしいの!」
しかしすぐに、手首をアンバーに掴まれて、ぐいっと引き寄せられてしまう。
そして、フォークの先に刺さっていたパンケーキは、パクッとアンバーの口の中へ消えた。
「ホント、美味いね」
アンバーは、もぐもぐと口を動かしながらそう言って、無邪気な笑顔をアンジュに向けた。
「……う……」
その瞬間、ドクンと心臓が跳ねて、アンジュは慌ててアンバーから視線を外し、顔を背けてしまう。
「どうしたの? アンジュ」
「なんでも……ない」
たったこれだけの事なのに、身体の芯に熱が灯る。
番になったΩのフェロモンは、他の者には効かないが、こんなところで欲しくなったら、抑えられなくなったら、それにアンバーが反応してしまったら……。
「アンジュ……?」
「お、お前の笑顔は、身体に悪いっ」
「は?」
いけないと、思えば思うほど、身体は逆らうように勝手に熱くなっていく。
何か他の事を考えなければ……と、思ったその時だった。
「コーヒーのおかわりは、いかがですか?」
背後からウエイトレスの明るい声が聞こえてきた。
ともだちにシェアしよう!