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第57話

「えー? そうだったの?!」  ウエイトレスは、自分の頬を両手で挟み、目を丸くして驚いている。 「え? いつから? もしかして番になったばかりとか?」 「……えーと……うん、まぁ、そうだよ」  彼女の意外な反応に、アンバーもさすがに照れているようで、少し頬が赤い。 「なんだ! なら、早く言ってくれれば良かったのに! お祝いしなくちゃ……あ、スイーツまだ食べてないでしょ? 私が奢ってあげるから食べて!」 「え? え? ちょっと待って……そんな……」  アンバーは、彼女の申し出を断ろうと、慌てて立ち上がるが、その声は周りにいる客達の拍手と歓声に掻き消されてしまう。 「それはめでたいな。おめでとう」 「おめでとう!」 「おめでとう!」  口々に祝いの言葉を言いながら、いつの間にか二人の座っているカウンター席を取り囲んでいた。 「マーラ、振られたな」 「別にいいの。彼、ちょっと好みだったけど、こんなに可愛いお相手がいるんだもの」  あっけらかんと笑い飛ばし、マーラと呼ばれたウエイトレスが、アンジュの方へ振り返った。 「ごめんね。この街小さいから、なかなかいい人見つからなくて。だから……つい……ね」 「……え、……いや……」  さっきまでは、女の子に誘われて、まんざらでもないような顔をしていたアンバーに、ちょっと苛立ったりしたけれど、今はもうそんな事はどこかに吹き飛んでしまっていた。  赤の他人のことなのに、店内にいる誰もが喜んで、お祭りのように騒いでいる。この状況に頭がついていけなくて。  アンバーもアンジュも、ただ呆気に取られて、言葉も出てこない。 「どうぞ、ちょうど焼き立てだよ」  そうこうしているうちに、マスターがカウンターの中から、大きなチェリーパイをホールで出してくる。 「どう? 美味しそうでしょ? マスターご自慢の自家製チェリーパイよ」  そう言いながら、まだ温かいチェリーパイに、たっぷりとホイップクリームをつけていく。  そして、ナイフで丁寧に切り分けて、二人の分をプレートに載せると、残ったパイを他の客達に見えるように差し出した。 「さぁ、席について! みんなで食べてお祝いしましょう」  どっ! と、店内に歓声が沸き起こり、彼女は順番にテーブルを回って、チェリーパイを配っていく。  その様子を、唖然とした様子で見ていた二人に、マスターが声をかけてくる。 「はは……、驚いたかな?」  アンバーは、マスターに視線を移し「……は、はい。少し」と、遠慮がちに答えた。 「これが、この街のやり方だよ。楽しいこと嬉しいことは、みんなで祝って、分かち合う」  マスターは人のよさそうな笑顔を浮かべながら、そう教えてくれた。

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