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第62話
「続き……?」
「その若者なんだけど、その一年後に森に入ったきり、今度は二度と帰ってこなかったんだ」
「え?」
もう一度だけでいいから、あの光景を見たくて。
あの時出会った白い狼が忘れられなくて。
どうしようもなく惹かれて。
本当の理由は分からないが、とにかく若者は、あれから人が変わってしまった。
周りの人達が止めるのも聞かずに、まるで何かに取り憑かれたかのように、仕事もせずに毎日毎日森へ、あの湖畔へ、狼を探しに森に通い続けていた。
だけど、あの時の湖畔の周辺をどんなに探しても、狼の影も形もない。
白どころか、若者を襲ったという灰色の狼さえ見つからなかった。
「狼は、どこか別の所に行ってしまったんでしょうか?」
「そうかもしれないね、人間に居場所を見つけられてしまったのだから。けど、違うかもしれない。若者が見たというのも、もしかしたら幻だったのかもしれないし」
だけど、一年後のある日、いつものように森に出かけた若者は、夜になっても街には戻ってこなかった。
その日は、若者が白い狼に出会った時と同じ、満月の夜だったという。
翌日は朝から、街の人達が大勢で捜索をしたけれど若者を見つけることはできず、死体すら出てこない。
まるで神隠しにでも遭かったかのように、消えてしまったのだ。
その事があってから、余計に若者の言っていた話が現実味を帯びて、街の人達はさらに白い狼を畏れを抱くようになった。
森の奥の湖畔へは、絶対に行ってはいけない。白い狼を探してはいけないと、伝説は次の世代、また次の世代へと語り継がれていく。
だけど語り継がれていく過程では、どうしても現実味が薄れていってしまうのも仕方のない事だった。
ある時、数人の若者のグループが、興味本位で伝説の白い狼を探しに、森の奥へと入っていった。
道も無い森の中を進み、若者たちはとうとう、あの湖畔に辿り着く。
もう辺りは暗くなりかけて、薄暗い空には満月が浮かび上がっていた。
辺りは静寂に満ち、自分たちの歩く足音と草を掻き分ける音しか聞こえない。だけど、その合間にパシャ……パシャ……と湖の方から密かな水音が聞こえてきた。
風もないのに何の音だろう……と、若者たちは顔を見合わせた。
そっと湖に近づいて、息を殺して背の高い草の隙間から覗き窺えば、信じられない光景が目に映る。
若者たちは、思わず声をあげそうになった。驚きすぎて、尻餅をついた者もいる。
なんとか声を堪え、動きを止めて、草の影に身を潜め、もう一度そっと覗き見る。
──やっぱり、見間違いじゃない。
若者達が目にしたのは、湖の中で、一糸まとわぬ姿の少女が水浴びをしている光景だった。
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