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第63話

 年は15か16歳くらいだろうか。  腰の辺りまで伸びた銀色の髪の隙間から見え隠れする白い肌。  薄く筋肉のついたしなやかな若い肢体が、水に濡れキラキラと輝いていた。  くっきりと浮かび上がる肩甲骨と、美しい背骨のライン。  なめらかなカーブを描く細い腰のくびれ。  丸く膨らんだ胸の頂で、慎ましく存在を主張する桜色の突起。  まだ大人になりきらない、成長途中の美しい少女の裸体に、若者たちはごくりと喉を鳴らす。  目の前の光景に意識を奪われて、『なぜこんな場所に、女の子が一人でいるのか』などの疑問は、頭の中から消えていた。  残陽は、いつの間にか山の向こうに光を隠し、辺りは闇に包まれていく。  太陽の光がまだあるうちは薄く輪郭だけを見せていた満月が、黒い夜空にくっきりと浮かび上がり、その存在を誇示するような青白い光が湖を明るく照らし始めた。  すると少女は、白い喉を反らし夜空を仰ぐ。  まるで、青白い光のシャワーを浴びせかけるように、月は少女の周りだけを幻想的に照らしていた。 「……なんだ……この甘い匂い……」  突然若者の一人が、うわごとのように言葉を零しながら立ち上がった。 「おい、どうした?」  立ち上がったら、見つかってしまう。  隣にいた友人が、慌てて腕を掴んで座らせようとしたが、その若者はそれを振り払い、一歩、また一歩と、ふらふらと前へ歩き出す。  まるで、何かに憑かれたように、湖へ引き寄せられていく。 「待てって! どうしたんだ」  友人の止める言葉も、彼の耳には届かないようだった。 「あいつ、俺を誘ってる……」 「え……? 何言って……」  その時、湖の少女に変化が起こった。  湖の方へ歩いていく友人を止めようとしていた若者は、思わずその手を離し、草むらに身を隠した。  少女の銀色の髪が身体に纏いつき、まるで上質な毛皮のようにふさふさと、濡れた肌を覆っていく。  そして腰の辺りからは、ふわふわの尻尾が伸びるのが見えたのだ。  草むらに隠れた友人は何度も目を擦り、もう一度湖の方へ視線を戻す。 「おい、あれ何だ……俺の目がおかしいのか?」  他の若者達も、口々に声をあげた。 「いや、俺にも見える。あれは狼だろ?」 「いや違う、あれは狼でもない……人間でもない……」  顔は少女のまま、鋭い爪、頭には三角の耳、そして尻尾。全身は白と銀色の混じった獣毛に覆われて、薄く開いた口からは、獣の牙が覗いている。  それは、世界各地で語られている、架空のモンスターの姿だった。  彼女は、月を見上げ、独特の鳴き声で音を奏ではじめる。  切ない響きの遠吠えだった。  すると、森のあちらこちらから、それに応答するように狼の遠吠えが聞こえてくる。 「これ、なんかやばいんじゃないか……」 「おい! ケニー! 戻ってこい!」  友人は、湖にゆっくりと近づいていく若者の名前を必死に呼んだ。  しかし、ケニーと呼ばれた青年は、振り返りもしない。  そうしているうちに、湖の中にいる少女の視線が、近づいていく若者の姿を捉えた。    

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