先頭に立つ若者は、咄嗟に持っていた猟銃を構えた。 　標的に向かって軸になる左足を少しひねり、右足を後ろに引いて、狙いを定める。 　しかし息は上がり、腕も震えている状態では、照準を合わせる事は容易ではなかった。 　それでも若者は無我夢中で引き金をひいた。 　衝撃で若者の上半身が後ろに仰け反り、銃身が上に跳ね上がる。 　鼓膜を破りそうな銃声が静かな森に響き渡り、辺りには火薬の匂いが立ち込めた。 　３０メートル先の標的の影はぐらりと大きく揺れて、地面に倒れたように見える。 「やったか？」 「分からん。でも手ごたえはあった」 　若者は構えを崩さずに狙いを定めたまま、ゆっくりと歩を進める。 　確実に仕留めなければ、この細い獣道では逃げ場がない。 　距離を縮めても、狼は倒れたままぴくりとも動かなかった。 　若者は、内心ホッと胸を撫でおろしながら、とどめを刺す為に、もう一発倒れた獣に弾丸を打ち込んだ。 　血が飛び散り、草葉を濡らす音と共に、倒れた黒い影が撃たれた衝撃に揺れる。 「……仕留めたぞ。もう大丈夫だ」 　と、銃をおろし、若者が振り返ったその時だった。 「────あっ、……！」 　離れた所で見守っていた仲間達が、指をさしながら、一斉に悲鳴のような声を上げる。 　こちらへ振り返っている若者の背後で、たった今確実に仕留めたはずの狼が、よろよろと立ち上がったのだ。 「……え？」 　仲間が何に怯えているのか状況が分からない若者が、もう一度狼の方へ振り向いたその瞬間。 「────わっ、あああっ！」 　それは一瞬の出来事で身を躱す余裕もなく、飛びかかってきた大きな黒い影に若者の身体は、横の茂みの中へと押し倒されて、その姿が見えなくなった。 　ガサガサと音を立てて、茂みが激しく蠢く。 　グルルルル……と狼の喉が鳴り、若者の助けを呼ぶ声が、だんだんと弱々しく消えていく。 　だけど、残りの若者達はどうすればよいのか分からずに、ただ立ち尽くしていた。 　その中で一人の若者だけが、意を決したように地面に残された猟銃を拾い上げた。 「くそっ！」 　猟銃の撃ち方なんて、まるで知らない。だけど見よう見まねで、茂みに向けて引き金をひく。 　パーン！　と、乾いた音が響き、一瞬茂みの中が静かになった。 　けれど、次の瞬間には怒ったような唸り声が聞こえてくる。 　友人が消えた茂みの中からではなく、他の場所からだ。 「……囲まれてる……？」 　辺りをぐるりと見渡しても姿は見えない。でも確かに気配は感じる。 　１、２、３……茂みに潜んでいる狼は、３頭はいる。