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第70話

 意識を取り戻した若者は、昨日の夕暮れから夜が明けるまで、森の中で自分達の身に起こった事を、事情を聞きに来た保安官に隠すことなく全て話した。  興味本位で幻の白い狼を捜しに、行ってはいけないと伝えられている湖水地帯に足を踏み入れてしまった事。  白狼の姿はなく、不思議な少女に出会った事。  その少女の身体が満月の光を浴びて変化した事。  そして、少女のヒートにあてられたケニーを湖に置きざりにしてしまった事。  数頭の灰色の狼に襲われて、自分以外の残りの若者達は全て殺されてしまった事。  こんな事を話しても、信じてもらえないだろうし、下手すれば気が狂ったと思われかねない。それも分かっていたけれど、話さずにはいられなかった。  それが、狼に襲われている友人達を助けようともせずに、一人で逃げてしまった自分のせめてもの償いであり、責任だと思っていたから。  話を最後まで黙って聞いていた保安官は、怪訝な顔をした。  若者を救助してから、森の中をほぼ全域、そして湖水地帯の辺りも捜索したが、若者達の死体は見つからなかったのだ。  着ていた服も、骨すら見つからなかった。  唯一発見されたのは、それぞれが持っていた荷物と、弾の入っていない猟銃だけだったのだ。 「本当に君達は、狼に襲われたのかね?」  ──狼……?  若者は、一瞬言葉に詰まる。  あれは、本当に狼だったんだろうか。 「あれは……狼なんかじゃない……」 「え?」  最初に襲ってきた狼は、確かに友人が銃を二発撃って仕留めたはずだった。  彼は猟師だ。手応えはあったと言っていたし、狼に命中したのは間違いなかったのだ。しかも二発目でとどめを刺して確実に殺したはずだった。  それに、自分が襲われた時……あの時も、残っていた最後の一発で絶対に致命傷を与えたはずだった。  ──それなのに……。 「あいつら、銃で撃っても効かなかった。致命傷を負わせたはずなのに、またすぐに立ち上がって襲ってきたんだ」  湖の少女も、月の光を浴びて変化した。狼の耳、それに尻尾。そして全身を覆っていく銀色の獣毛。  でも、あれは狼じゃなかった。ましてや人間でもない。  ──満月の夜にだけしか姿を現さない。普段は人間と見分けのつかないモンスター。  人が獣に変わるという伝説は、世界各地で伝えられている。  その殆どは架空の話だと思われているが、若者が森で見たあれは、確かにこの世に存在していた者だ。 「あれは……ウェアウルフ(人狼)……そうだウェアウルフに違いない!」

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