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第72話
街の住人を一人ずつ調べなくても、ウェアウルフを一掃するには、森にいる狼を根絶やしにするしかない。
その狼を見つける為には……。
「……ひとつだけ方法があるかもしれない……」
若者が、ぼそぼそと呟いた。
「なんだ? 言ってみなさい。少しでも可能性があるのなら」
ケニーの父親も必死だった。息子を奪われたままで、このまま何もしないわけにはいかない。すぐにでも森に入って狼達を残らず狩り殺してしまいたい。今ここでじっとしている事さえ苦痛であった。
「狼達が姿を現すのは、満月の夜なんですよ。昨夜も、そして昔の白狼伝説も、狼が現れたのはどちらも満月の夜だった」
狼がいなくなった、あの湖に。きっと満月の夜だけ集まってくるのだ。
普段は人間に姿で街の住人の中に紛れて暮らしているのかもしれないが、特別の夜にだけ野生にかえる。
世界各地で語り継がれているウェアウルフも、満月の夜に姿が変化して人間を襲うというものばかりだ。
「だから、満月の夜に、狼を狩りにいけばいいと言うのか?」
ケニーの父親の問いに、若者は頷いた。
「でも、銃弾が効かなかったんだろう? そんなモンスターをどうやって狩ればいいんだ」
頭をひねる保安官に、若者はぽつりと答えた。
「銀の弾なら……殺せると聞いたことがある」
──銀の弾。
世界各地に残っているウェアウルフの伝説に、“ウェアウルフは銀に弱い”というものがある。
銀には殺菌作用があり、人間にはほぼ無害とされているそれが、ウェアウルフには毒になり、その細胞を破壊する。
教会で聖別された銀の弾は、よりその効き目があるとされている。
「い、いや……それは単なる迷信でしょう? ウェアウルフがいるとか、銀の弾だとか……」
渋る保安官の言葉を遮るように、ケニーの父親は身を乗り出した。
「よし分かった。次の満月までに聖別された銀の弾を用意しよう」
「ちょっと……本気ですか?」
「当たり前だ。次の満月までに人を集めよう。街の全ての猟師と、それから保安官!」
「は、はい」
「もちろん警察にも協力してもらいますよ」
保安官は、街の有力者であるケニーの父親には逆らえない立場にあり、拒む隙も与えられなかった。
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