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第73話
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「……それで……どうなったんですか?」
マスターの話を真剣な眼差しで聞いていたアンジュは、胸の奥から切ない想いが込み上げてくるのを感じていた。
その話が本当だとしたら、その狼達は紛れもなくアンバー達ウェアウルフが、絶滅寸前までに数が減っていった原因のひとつなのかもしれない。
ノースシストを追われ、各地の森や山を転々としながら自分達の棲み処を捜し、どうすれば生きていけるのか模索し続けた。──そしてイーストシストに辿り着いたのだ。
「次の満月の夜、夕刻から森に入ったハンター達は湖周辺に罠をはり、身を潜めて狼が現れるのを待ったそうだよ」
夜の闇が森を覆い、満月が明るく輝く頃、一頭の狼が姿を見せた。
それは、若者が言ったような人間の姿をしているわけではなく、普通の狼だった。
だが、森にいる狼は例外なく全て狩らなければいけない。
ハンター達はその狼に照準を合わせてたまま、息を殺して見守っていた。
仲間が出てくるのを待っていたのだ。
この狼がΩなら、満月の夜に発情し、番を求めるはずだから。
今回の狩りには、α性の者は参加していない。ケニーの事があったので、用心の為にβ性の者のみを集めたのだ。
やがて湖畔に立った狼は、天を仰ぎ独特の鳴き声を奏で始めた。
すると、どこからともなくそれに応える遠吠えが、静かな森に響き渡る。
若者の言った通りだ。
目を凝らし、息をひそめ、暗がりから出てくる狼を待つ。
時間を待つこともなく、その時はすぐに訪れた。
暗い茂みの中から、一頭、また一頭と、黒い影が出てきて、湖畔の狼の周りに集まってくる。
湖は、大勢のハンター達に完全に包囲されていた。
そして、指笛の音と共に、一斉に射撃が始まったのだ。
不意をつかれた狼達は、聖別された銀の弾に撃たれ、次々と倒れていく。
その効果は絶大だった。普通の弾丸では効かなかった狼達が、倒れたままもう二度と起き上がらなかったのだ。
その夜から“狼狩り”は、満月の夜が訪れる度に実行された。
消えた若者達の捜索は、それからも毎日のように行われたが、まったく手掛かりがなく、無情に月日だけが流れ、いつしかケニーの父親さえも諦めて打ち切られてしまった。
そうして、満月の夜にあの湖畔を張っていても、狼が出没することはなくなっていく。
念のために湖水地帯周辺の木々や草は、火をつけて焼きはらわれてしまった。
湖水地帯だけでなく、森全体を狩りつくし、狼の姿は今度こそノースシストから消えてしまった。
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