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第75話

「……え?」  ──なんで分かったんだ……。  番のいるΩは、たとえ発情期の間でも、番以外にはフェロモンを感じさせる事はないはずなのに。  それは人間だったら……の話だけど。  トレイターは、アンジュのフェロモンで、あのモーテルの場所がすぐに分かったと言っていた。  ウェアウルフは、番以外でもΩのフェロモンを感じ取ってしまう。  という事は……この男は……?  考えを巡らせていると、突然男の手が伸びてくる。 「今、発情期? それにしては匂いが薄いな……」  そう言いながら、アンジュの長めの襟足の髪を払い、直接項に触れた。 「……っ!」  不意を突かれて思わず身体がビクンと跳ねる。その手から逃れようと身を捩ったけれど、強い力で掴まれ引き寄せられて、逃げる事ができなかった。 「……なんだ……良ければ俺が相手をしようかって思ったのに、番持ちなのか」  今、店に入ってきたばかりのマックスは、アンジュがアンバーの番だという事を知らなかったのだ。  アンジュの項の傷を確かめて、漸く分かったらしい。Ωで発情期のようなのに、匂いが薄い理由を。 「は、放せ……」  悪気は無かったかもしれないが、番以外の男に触れられて、気分は最悪だった。 「おいっ! その手を放せよ」  すぐ後ろで、アンバーの怒気を含んだ声が響き、マックスは驚いてその手を離した。 「おっと、ごめんよ。番がいるって知らなかったんだ」  そう言って、マックスは引っ込めた手でボリボリと頭を掻く。 「悪かったな……俺はマックスってんだ」  人懐っこい笑顔を見せ、マックスがアンバーに握手を求めてくる。 「あ……あぁ、こちらこそ、大きな声を出してすみませんでした。僕は……アンバーと言います。こっちはアンジュ」  アンバーはマックスと握手を交わし、男と反対側のアンジュの隣に腰を下ろした。 「ノースシストは初めてか?」 「はい。さっき着いたばかりで……」  アンジュを挟んで、二人が普通に会話を始める。  人当たりが良さそうに見えるマックス。  だけどアンジュは、さっきからどうしても気になっていた。どうしてマックスが、自分の事を発情期だと分かったのか。  狼を狩っていたと言うのだから、まさかウェアウルフではないだろうとは思うけれど。  人間の鼻でも、敏感に感じてしまう人もいるのだろうか。そんな話は聞いた事がないが……。  それならば、これからも発情期の時はなるべく他人に会わないようにした方がいいのかもしれない。

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