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第77話

そう言いながら眉をハの字にしているマックスが、どうにも困った顔をした熊にしか見えない。アンジュは思わず吹き出しそうになるのを堪えて、そっぽを向いた。 「べ……別に……俺、何も言ってないし……熊とか……プッ……」 「あー、お前! 今、笑ったろ? 笑ったよな?」 「……笑って、ない……し……ッ……ッく……」  背を向けても、ぬっと覗き込んでくるマックスに、アンジュは堪え切れずに、くっくっくっと肩を揺らしながら笑い声を漏らしてしまった。 「ちぇ、しょうがないな。まぁ、森なんだから熊くらいいるでしょ。縄張りにさえ入らなかったら、滅多に襲ってきたりしないよ」  熊は自分の縄張りを主張するために木に爪痕を付ける。もしも森を歩いていて、まだ新しい爪痕を見つけたら、その時は視野を全体に広げて歩くようにして、なるべく早くそこから離れた方がいいと、マックスは教えてくれた。  遭遇さえ避けていれば、熊の方でも人間を警戒しているから、自分から近づいてくる事はないという。 「熊は恥ずかしがり屋さんだからな。俺と一緒で」  マックスは地声が大きくて、その言葉は店内の隅々まで届いてしまい一斉に注目を浴びた。次の瞬間笑いの渦が巻き起こる。 「笑かすなよ、マックス」 「誰が恥ずかしがり屋さんなんだよ」 「冗談は顔だけにしてくれ」  どうやら、マックスは普段から面白くて、この店の常連から好かれているようだ。  笑いを堪えていたアンジュも、とうとう腹を抱えて目に涙を浮かべ、笑いが止まらなくなっていた。  アンバーもつられて笑みを零しながら、その様子を見ていたが、すぐに真剣な表情に戻ってカウンター内のマスターに視線を移した。 「あの……若い人が行方不明になってるって、本当ですか?」 「あ? ああ……本当だよ。ここ二年くらいかな。十代後半の子達がね、出かけたまま帰ってこないという事が数件あってね。未だに全員行方不明なんだ」 「家出……とかじゃなくて?」 「分からないねぇ。でもこの街から他へ出て行きたがる者はいないから、家出というのは考えにくいんだが……」  商業も流通も発達しなかった閉鎖的な街、ノースシストは、来る者は快く受け入れるが、出て行く者はいない。  長い間他との関わりを断っていたから、外の世界に出ていく事が怖いのだ。 「この街は治安だけは良かったんだけどねぇ。君達も夜はなるべく外を出歩かないようにして、くれぐれも注意した方がいいよ」 「そうですね……注意します」  アンバーはマスターの忠告に頷いて、マックスを中心に盛り上がっている店内へ視線を巡らせた。  

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