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第4話
×××
瞼に光が射す。
何て事はない日常。朝だ。
じゅうじゅうと何かを焼く音が、台所から聞こえてくる。
その音に乗って、匂いまで。
……こんな絶望の朝でも、腹は減るんだな……
何だかそれが、無性に腹が立つ。
ナツネがくれた、平和な世界。
その上にいつまでも立ち上がる事のできない僕。
「おはよ」
カズが顔を出し、僕に笑顔を見せる。
……ごめん、カズ。
そんな気分になれそうにない。
「ほら、会社遅刻するよ」
カズが部屋に入り、僕から布団を引っ剥がす。
「…………」
なに、この平和なやり取り。
学校に遅れるよ的な……軽いノリ。
……言われなくても、起きるって。
カズを見ずに、重い体を持ち上げる。
まだ胃の辺りがムカムカして気持ち悪い。
「なぁ、伊江」
デスク前に立つカズが、僕の描いた紙を持ち上げる。
そこに描かれたのは、『生殖種』
薬で万年発情させられた女性が、出産を繰り返して老いが早まり、二十代で老婆のような姿のまま、それでも男を求めて檻から手を拱いている姿──
「……もう、こんなの描くなよ」
そう言ったカズが、こちらに顔を向ける。
「これ以上、伊江が苦しむ姿なんて見たくない。
……もし金の為にやってるなら、俺が何とかするから」
「………」
金の為……?
違う。
違う違う違う!
金の為だと、そう思い込みたかっただけだ!!
……本当は、自分を傷付けたかった。
ナツネくんが傷付いてるように……僕も……
クイーンのいる扉を閉めるボタンを押したのは、僕だ。
僕なんだ。
「………とりあえず、飯食おうぜ」
キッチンに置かれた、二人用の小さなダイニングテーブル。
そこに、塩漬けの細切れ肉と、カズがプランター菜園してるという葉物野菜を炒めたもの。玄米。ネギのスープが並ぶ。
僕の茶碗には山盛りの玄米。対して、カズの玄米は半分しかない。
「……お前の仕事……体力勝負なんだから、ちゃんと食えよ」
カズが変わらない笑顔でそう言う。
「………」
カズがいるから、僕はここに留まっている。
だけど、カズがいるから………僕はこの世から消える事もできないんだ……
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