4 / 19

第4話

××× 瞼に光が射す。 何て事はない日常。朝だ。 じゅうじゅうと何かを焼く音が、台所から聞こえてくる。 その音に乗って、匂いまで。 ……こんな絶望の朝でも、腹は減るんだな…… 何だかそれが、無性に腹が立つ。 ナツネがくれた、平和な世界。 その上にいつまでも立ち上がる事のできない僕。 「おはよ」 カズが顔を出し、僕に笑顔を見せる。 ……ごめん、カズ。 そんな気分になれそうにない。 「ほら、会社遅刻するよ」 カズが部屋に入り、僕から布団を引っ剥がす。 「…………」 なに、この平和なやり取り。 学校に遅れるよ的な……軽いノリ。 ……言われなくても、起きるって。 カズを見ずに、重い体を持ち上げる。 まだ胃の辺りがムカムカして気持ち悪い。 「なぁ、伊江」 デスク前に立つカズが、僕の描いた紙を持ち上げる。 そこに描かれたのは、『生殖種』 薬で万年発情させられた女性が、出産を繰り返して老いが早まり、二十代で老婆のような姿のまま、それでも男を求めて檻から手を拱いている姿── 「……もう、こんなの描くなよ」 そう言ったカズが、こちらに顔を向ける。 「これ以上、伊江が苦しむ姿なんて見たくない。 ……もし金の為にやってるなら、俺が何とかするから」 「………」 金の為……? 違う。 違う違う違う! 金の為だと、そう思い込みたかっただけだ!! ……本当は、自分を傷付けたかった。 ナツネくんが傷付いてるように……僕も…… クイーンのいる扉を閉めるボタンを押したのは、僕だ。 僕なんだ。 「………とりあえず、飯食おうぜ」 キッチンに置かれた、二人用の小さなダイニングテーブル。 そこに、塩漬けの細切れ肉と、カズがプランター菜園してるという葉物野菜を炒めたもの。玄米。ネギのスープが並ぶ。 僕の茶碗には山盛りの玄米。対して、カズの玄米は半分しかない。 「……お前の仕事……体力勝負なんだから、ちゃんと食えよ」 カズが変わらない笑顔でそう言う。 「………」 カズがいるから、僕はここに留まっている。 だけど、カズがいるから………僕はこの世から消える事もできないんだ……

ともだちにシェアしよう!