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第5話

『特殊清掃』 復興が進んだとはいえ、まだ遺体はこの世に存在している。 それは人間であったり、中には巨大カマキリの化け物であったり。 それらを片付け、部屋を綺麗に清掃するのがこの仕事。 復興が始まった頃は爆発的に需要の高い職業で、色んな名前の会社が立て続けに設立したり、大手が新規参入したが……もうすぐ3年となるとその需要も下火になっていく。 当然ノウハウの浅い会社は潰れ、大手は次々に撤退。 独立した特殊清掃会社の数が減る中、僕の務める会社は長い実績がある分、安定的に仕事が舞い込む。 社名入りのワゴン車に清掃道具を詰め込む。繋ぎに安全靴。防塵マスク。メット。軍手。他。 「……伊江くんがこの会社に残っててくれて、助かるよ」 運転席に乗り込んだ先輩が、ポロッと愚痴をこぼす。 「復興が進んで、求められる仕事の形態も変わって………若い奴らはこの汚い仕事に見切りをつけてさっさと辞めちまった。 ……3年経った今も、まだ必要な人間は世の中に残っているっていうのにな」 「………」 みんな、時代の流れに乗っかっていく。 それが正しいかのように、導かれて。 いつの時代だってそうだ。 その波に、いかに早く乗りこなせるかでその人の人生が大きく左右されてしまう。 おぐっちゃんのように。 乗りきれにいるガラパゴスな人間は……いずれ社会から切り捨てられていくんだ。 そして、忘れ去られていく。 僕みたいに── 「この部屋なんだけどねぇ」 アパートの管理人が、グチグチと戯れ言をこぼす。 「もうずっと手つかずで、困ってんのよォ」 先輩がドアをこじ開ければ、その瞬間に立ち込める……想像以上の悪臭。 腐敗臭……遺体と劣化した食べ物。 充満した腐敗ガス。排泄物。染みついた血や体液。風で舞い上がる埃。 「……いくぞ、伊江」 先陣切って、先輩が乗り込む。 その後に続いて靴のまま上がる。 マスクからは容赦のない悪臭。 口で息をするものの、どうにもならない。 玄関の方を振り返れば、そこにはおびただしい量の体液や血が飛び散った跡。 ここで何が起こったのか……容易に想像できる。 「………」 ゾクゾクゾク、 体が震える。 止まらない……止まらない…… 両手で自分の体を抱き締める。 ……ナツネくん…… 目をぎゅっと瞑った瞬間。 僕はあの施設内にいるような錯覚を起こす。 あの化け物に食われる瞬間の映像が、瞼の裏に焼き付いている。 ごめんね…… ……ごめんね、ナツネくん…… 「あったぞ」 部屋の奥から、先輩の声に引き戻される。 玄関開けてすぐのキッチンを抜け、リビングに足を踏み入れた時だった。 ……うじゃうじゃ もぞもぞもぞもぞ…… 肉片に群がる、大量の蛆虫。 薄汚れた白い壁を走る、黒光りした物体。 ……! これ、3年前のものじゃない…… つい数日前まで生きていた……遺体だ。 否応なしに思い出されるのは、施設を出た時の光景── 化け物を含む、足の踏み場もないほど転がった大量の遺体。 その上を、カズとおぐっちゃんの三人で踏み歩いて……… 「……うっ、」 吐き気を催して、体をくの字に曲げる。 「おい、大丈夫か?」 中々やって来ない僕を心配してか、先輩が寝室からリビングの方へと顔を出した。

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