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第6話

「……伊江。ちょっと付き合え」 居酒屋。 パッと見は、以前と変わらない街の雰囲気。 それだけ復興も進み、あの凄まじい光景は人々の中で風化されつつある。 カウンターテーブルに先輩と並んで座り、奢るから適当に何か頼め、とメニュー表を渡された。 先輩の家に寄ってシャワーを借りたとはいえ、まだあの臭いが残っているような気がする。 石鹸で泡立てたナイロンタオルを擦り続け、白い皮膚は薄く皮が剥けて真っ赤。滲んだそこはまるで血のように滲み── 中々出てこない僕を心配して、覗いた先輩が慌てて僕を止めた。 結局ずぶ濡れになった先輩と一緒にシャワーを浴び、それから私服に着替えて近所にあるこの居酒屋ののれんを先輩とくぐった。 焼酎。 運ばれたグラスを持った先輩が、置かれたままのグラスにチンッと当てる。 それから剥き出しになった僕の腕に視線を移し…… 「今度あんな事したら、襲って食っちまうからな」 なんて、質の悪い冗談をこぼす。 「………いいですよ。別に」 魂の抜けたような声でそう返せば、先輩は溜め息をひとつつく。 「冗談なんかじゃねぇぞ……」 「………」 ぐっと焼酎を半分程飲んだ先輩は、ぼそりと呟き、少しだけ潤んだ瞳を僕に向ける。 「……なぁ、伊江。 お前、腹ん中になに溜め込んでんだよ」 「………」 「別に言いたくなきゃあ、それでいいけどよ。……このままじゃお前、そのうち壊れちまうぞ」 三年前──…… 家に戻ると、家族はいなかった。 誰一人、安否も解らず……行方不明。 学校も、辞めた。 行く意味なんてない。 カズとルームシェアして、だけど僕はカズのお荷物で。 そんな中見つけた仕事が、この『特殊清掃』だった。 僕には丁度いい。 ナツネくんの苦しみを忘れたくない。 カズのように。おぐっちゃんのように。 復興に向けて明るい未来へと進む、一般市民のように。 ……痛みごと、忘れたくない。 「先輩。もしこの世の中が、誰かの犠牲で成り立っているものだとしたら……… どう思いますか?」 ぐいっと焼酎を一気に飲み干すと、トンッとカウンターにグラスを置き、一気に言葉を吐き出す。 酒が回り、クラッと脳内が大きく揺れた後、全身に火が付いたように熱くなり、視界がぐにゃりと歪む。 「……犠牲か」 先輩の口角が少しだけ上がる。 「……まぁ、それが世の中ってもんだろうな。 人類の歴史を振り返ってみれば、その繰り返しだ。誰かの犠牲があったから、今の世の中が作られてる」 「………」 「細かい事を言えば、俺らの仕事は遺品整理だ。誰かが死ななきゃ生活が成り立たねぇ……」 言葉を切り、先輩がグラスを傾ける。 その様子を眺める僕に、先輩は笑顔を向けた。

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