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第7話

「俺はさ、この仕事をした時からずっと思ってる事がある。 遺体と向き合う度に、この人の人生は幸せだったのかなってよ。 ……俺は家庭環境の悪い所で育ったから、元々一人でいる方が気が楽でさ。今まで恋人なんて作った事もねぇ。 もし仮にいたとしても、こんな3K以上の酷ぇ仕事してる奴と所帯持ちたいってぇ物好きな女なんか、いねぇだろ? ……嫌がるだろ、普通。 だからさ、独り身の俺には向いてる仕事なんだなって。 けど、遺体と向き合う度に思う。 このまま一人で生きていたら、いつか俺も………こんな風に誰かに片付けられんのかなって。 そん時、お前はそれで幸せだったのかって、問われんのかなぁってよ」 先輩は、こんな世の中になる前から、遺品整理をする今の仕事に就いている。 化け物に食われた遺体しか片付けた事のない僕には、解らない感覚。 ねぇ、ナツネくん。 ナツネくんは……それで、良かったの……? ……ねぇ…… 「…………」 「お、どうした」 へにゃんっ、とカウンターに身を委ね顔を埋めた僕の肩を、先輩が二度叩く。 「まさか一杯で酔ったとか言うなよ………って、おい。伊江。ここで寝るな」 重い体を、先輩が支えてくれる。 戻ってナツネを助けると泣き崩れる僕をおんぶしてくれた…… あの時のカズみたいに。 「……お前の家、ここか?」 そう聞かれて、重い瞼を開ける。 「鍵貸せ」 「……ん……」 先輩は、おんぶしたまま僕の手から鍵を受け取る。 玄関の上がりで一度下ろし、僕の靴を脱がせると、今度は僕をお姫様抱っこした。 「……水、飲むか?」 寝室のベッドに転がされた後、先輩がベッドに手を付いて顔を覗き込む。 「……ん、」 「よし、待ってろ」 離れていく影。 それを僕は必死で手を伸ばして掴む。 ……いか、ないで…… その掴んだ布地を、ぐっと引っ張った。 「……して」

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