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第8話

込み上げてくる涙。 それが頬を伝って落ちれば、上擦って苦しくて……引き摺るような浅い息を何度も繰り返す。 ……ごめんね……許、して…… ナツネ…… ナツネ…… 「……な、つね……」 ギシッと深く沈むベッド。 まだヒリヒリとした皮膚に、熱いモノが充てられる。 「……伊江」 次いで頬に濡れた涙が吸い取られ、閉じた瞼が熱くなる。 「好きだ、伊江……」 手首を掴まれ、ベッドに押し付けられ、喉元に顔を埋められる。 体に重みと人肌を感じ、それが何だか心地好くて……とても安心して…… 「……はぁ、……ぅン、」 安堵の溜め息を吐いた瞬間、塞がれた唇。 柔らかな熱い舌肉が滑りこみ、情欲を掻き立てるように僕の咥内を掻き回す。 それになんとか答えようと、舌肉に自身の舌を懸命に絡め、唾液を混ぜ合わせる。……無意識のうちに。 ちゅ、くちゅっ……ん…… 「……ふ、……は、ぁ……」 淫靡な水音。 溶け合う、お互いの熱い息。 優しく撫でられる、頬。 「……ナツネ、か。随分と伊江を悲しませる奴なんだな……」 唇を離した先輩は、頭を上げ周りを改めて見回す。 そして目に付いたのは、デスクにある幾つかの紙。 「………これは」 山引の背中から産まれるナツネ。 急速に成長し、ゆりかご地下室へと向かう、大量のナツネ。 クイーンに食われ、引き千切られるナツネ。 笑顔で涙を浮かべる、ナツネ。 ナツネ。ナツネ。ナツネ。 ナツネ。ナツネ。ナツネ。 ナツネ。ナツネ。ナツネ。 ナツネ。……… 「………」 ベッドに眠る僕。 頬についた涙の跡を、先輩の親指に拭われる。 そして前髪が搔き上げられ、剥き出しになったそこに、熱い唇を押し当てられた。 ……ガチャッ 玄関のドアが閉まる音。 その音に気付き、なんとか重い瞼を開けた。

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