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第9話
「……ただいま」
カズの声。
「悪ぃ、遅くなった」
トントン、と足音が聞こえた後、ドアが開き、カズが顔を見せる。
『このまま一人で生きていたら、いつか俺も、こんな風に誰かに片付けられんのかなって』
「飯、今から作るから」
「……カズ」
カズがいるから……僕は留まれる。
呼ばれて部屋に入ってきたカズは、僕の様子に首を傾げながらベッドに近寄った。
そしてあからさまに苦い顔をする。
「……酒、飲んだのか?」
「ん……一杯だけ」
「もう酒は止めろって言っただろ」
とろんとした瞳をカズに向ければ、カズは少し照れたように視線を逸らし、顔を真っ赤に染める。
「お前、その……無防備に誘う癖、あるから……」
「……ごめ…ん」
素直に謝ると、驚いたようにカズがこちらに顔を向ける。
「……カズ……ぎゅって、して」
「しょうがねーな」
仰向けのまま両手を伸ばすと、カズがベッドに上がってくる。
「誘ったのは、お前の方だからな」
「……うん」
「俺……ご無沙汰で、我慢できねーから」
カズが、僕の首筋に顔を埋める。
そこに熱いものが触れ、濡れそぼつ舌が這われる度……ぴくん、と体が弾かれる。
「……は、っ、ぅん……」
「伊江……風呂場の石鹸、変えた?」
「……ううん」
耳元で囁かれた後、その耳殻に舌先が入り込む。
「先輩のうちで……っん、……シャワー借りた……から」
「……は?何でだよ」
カズが顔を上げ、僕を見下ろす。
その瞳は、どこか怒っているように見えて……
「今日の遺体、酷くてさ……
化け物に食われた家族を見つけた遺族が、自分を切り刻んで……後追い自殺……したんだ」
「……」
カズの瞳から熱が消え、小さく揺れた後申し訳なさそうな表情に変わる。
ゆりかごを抜けた時の記憶がしっかりあるカズなら、どんな惨劇だったかは容易に想像できただろう。
「落ち込んでた僕を見かねて、先輩が飲みに誘ってくれたんだけど……悪臭つけたまま……店に入りたくなくて……」
カズから視線を逸らし、息を吐くように一気に吐露する。
「……伊江」
随分と真面目なカズの声。
それに引っ張られるようにカズを見れば、やっぱり真剣な顔をしていて……
「今まで言えなかったけど……
……もう、その仕事……辞めねーか……?
お前がナツネの事を思ってるのは良く解る。否定はしねぇよ。
……けど、伊江……」
カズが言いたい事は、痛いほど真っ直ぐ僕に突き刺さる。
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