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第15話
×××
「……おはようさん」
社名入りの繋ぎに着替えた僕は、ワゴン車に道具を詰めていると、肩をポンと叩かれた。
「おはようございます」
振り返って軽く頭を下げれば、そこにいたのは相変わらずの先輩。
しかし、何処か視線を泳がせていて、襟足をぽりぽりと掻いている。
「お前、昨日……虫にやられたっけ……?」
「……え?」
先輩の視線が、チラチラと首元に向けられるのを感じ、カァッと顔が熱くなった。
「……あ、えっと……これは……」
項を手で隠し、焦りながら目を伏せた僕の頭に先輩の手が置かれる。
「随分と伊江に熱心な虫だな」
「……え」
驚いてちらりと先輩を見上げれば、憂いを帯びた瞳が僕に注がれていた。
「何でもねぇよ……」
そう言った先輩が、誤魔化すように口角を上げ優しくぽんぽんする。
「……なぁ伊江。
昨日お前が言ってた、犠牲の上で成り立つって話だけどよ。
その上で生かされた俺達は、幸せになる義務がある。
……そうじゃなきゃあ、犠牲になった奴らが報われねぇだろ?」
先輩は少しだけ悪戯っぽい笑顔を見せると、僕の髪をぐしゃぐしゃにする。
「………」
……励まし、なんだろう。
でも、違う。
「死んでなんか、いません……
……寧ろ生きてるから……この世の中が平和なんです……」
僕の言葉に、先輩の頭上にクエスチョンマークが幾つも飛び出す。
不思議そうな顔をした後、淋しそうにため息をついた。
「なら、なんでそんな絶望した顔してんだよ。
……そいつ、生きてんだろ……?」
違う……
「もし……」
もし、まだゆりかごの地下室に……
そう口にしようとして、噤む。
おぐっちゃんが、ナツネの存在を公表しなかったのは……
クイーンの存在を知られてしまうのを避けるため。
これ以上、世の中を混乱させないため。
上を向いた人類に、希望を捨てさせないため………
「……もし、もう一度会えるなら……
……その時が、僕の幸せの始まり……です……」
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