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第18話

目が醒めると、ベッドの上にいた。ばっと体を起こしたが、腹部に激痛が走る。くそっと悪態をついてベッドを殴る。 「…ベッドに八つ当たりしても怪我は治りませんよ?」 ドアの先には眼鏡を掛けた真面目そうな男が1人、困ったように笑いながら立っていた。 「お前、誰だよ。ここはどこだ。」 「私は橘 翼(タチバナ ツバサ)と申します。巽…貴方を助けた男の友人です。ええっと、覚えていますか?」 こくりと頷く。名前は定かではないが、きっとあの喧嘩の強い偉そうな男のことだろう。 「ここは私の家です。貴方を運んできた男は巽大和と言います。彼は今、仕事でここにはいないので、私が変わりに貴方のことをみる事になりました。」 「お前が見る必要なんてないだろ。」 「ええ、そうですね。でも、巽に頼まれたので仕方がありません。」 「その巽って奴はなんで俺を助けたんだよ。」 「ああ、それは貴方を気に入ったんじゃないですか?」 気にいる要素はなかった筈だ。寧ろ、暴言の数々に嫌気をさしてもいいくらいだ。 「巽の考えていることなど、私には分かりませんが。まぁ、学園の生徒に囲まれた巽にとって久々に歯向かってくる貴方が物珍しかったってところですかね。」 「は?」 意味わかんねぇ。歯向かってから気にいる?理解出来ない。 しかし翌年。 俺はその言葉の意味を知る。 それはただ… 八割型同性愛に目覚めている生徒達に巽も橘も好意を寄せられる。顔と学力、家柄の良い彼らに媚びない生徒はいない。夏休み入った時、久々に自分達を批判する奴に出会って、彼らは興味を持ったのだろう。 たぶんそれだけだ。 「いえ、気にしないでください。親御さんに連絡を入れなくても大丈夫ですか?」 「…別に良いよ。それより巽って奴は学生なのに仕事してんのか?」 「ええ、彼は良いとこの御曹司ですから。夏休みなんてないに等しい。なのに彼がいきなり尋ねてきて貴方の面倒を見ろなんて言うんで驚きました。」 「随分と勝手な奴だな。お前はそれに従ってていいのかよ。」 「巽はいつも勝手ですから。慣れています。」 「変な奴…。」 「貴方は喧嘩して何がしたかったんですか?」 「むしゃくしゃしてただけだ。その憂さ晴らしだ。」 「…ははっ。」 「何が可笑しい。」 「いえ、昔の私に似ているなと思って。」 「は?なんであんたに似てんだよ。」 「こう見えても私も昔はやんちゃしていましてね。親は私に無関心。それが悔しくてムカついてそれで喧嘩をしていたんです。 でも一回しくじってしまって。その時、巽に助けられたんです。借りを返そうと彼に付き纏った結果、彼に憧れの情を持ってしまって。 結果がこれです。」 「あんたの話なんて興味ない。」 ああ、でも、俺とおんなじようなもんなだな。親が無関心。兄さんばかりを気にしてる。うざいくらいに。 笑えねぇ。 俺がもし誰かを惚れ込んだらああなるのか? 気持ち悪い。 「ふふっ、私の話をしたのは単に似ていると思ったからではないですよ。私も貴方を気に入りましたから。」 「おかしいんじゃねぇか。お前ら。なんで暴言吐かれただけで気にいることになんだよ。ドMかよ。」 「いえ、少なからず私は違いますよ。なんでしょうかね。学園に毒されたのか、はたまた自分と似ている貴方に何かを感じ取ったのか。まぁ、どうでもいい事です。それよりもまだ寝ていなさい。絶対安静だと医者から言付かっていますから。」 肋骨何本かいってたからな。今は歩くこともキツそうだ。だが、こんな奴らに長いこと世話になるつもりはねぇ。早く帰らないと。

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