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第19話

「俺、もう帰るから。お前らが勝手な事したんだ。礼はしないぜ。」 「はぁ、その体で無理に帰ったら傷が広がりますよ。それに巽にも怒られてしまいます。安心して下さい。私がきちんと看病します。携帯も没収させて頂いていますから。」 「おいっ、ふざけんな。返せよ。」 「駄目です。まぁ、巽ももう直ぐ帰ってくるでしょうし、帰りたければ巽におっしゃってください。」 あの眼鏡、かち割ってやろうか…。くそっ。殴ってでも帰るか。 「いっ…。」 「その怪我では私には勝てませんよ。」 「はぁ…。」 無理に外出てのたれ死ぬよりいいか。 ちっ…、仕方ねぇ。 「おい眼鏡。俺は勝手にここにいるだけだからな。」 「ふふっ、はい。そうですね。」 満足気な顔がムカつく。仕方なく、ベッドに寝転がる。わざと眼鏡がいない方へ顔を背けた。 「あいつのどこがいいんだよ。」 沈黙が続くなか、耐えきれなくなり声をかけた。別に他意はない。 「私に声をかけていいんですか。」 「暇潰しだよ。携帯ねぇし。」 「ふふ、そうですね。巽は凄いんですよ。頭はいいですし、喧嘩も強い、財力もありますし、人の上に立つ能力もある。全てを持っているというのにとてもお人好しなんです。そのせいでたまに損をするのですが。そんなところがまた魅力的なんです。」 「ふーん。」 そこまで完璧だと化け物みたいだな。 ふと、あの男を思い出す。確かに見上げるほど背が高く、キリッとした顔は女が好きそうだ。着ていた服も一瞬しか見ていないがすぐに高級ブランドもんだと判断出来た。女なんてより取り見取りだろう。 「でも、あんたの場合外見とか権力とかじゃなくて中身に惚れてんだろ。」 「よく分かりましたね。」 「あんたみたいな眼鏡は外見より中身を重視すんだよ。」 悔しいがこの眼鏡は俺の境遇と似ている。そんなやつが顔だけでお気に入りを見つけるはずが無い。 「やはり、貴方は面白いですね。私は面白い人が好きですよ。」 「はっ、言ってろ。」 眼鏡が何も言わないことを良いことに目を閉じる。あんな男、何が良いのか分かんない。でも、この眼鏡は彼奴に受け入れられて側にいるんだ。 家族よりも心地よい場所を見つけたんだろうな。

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