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第24話
熱を出したのは何年ぶりか。
思い出せないくらい前だったように感じるし最近だったようにも感じる。
ただ思い出すのは部屋の中で1人籠って、熱が下がるのを待つ様子。時々見に来る使用人はご飯を持ってくるか、体を拭きに来るかくらいだった。
勿論、父さんも兄さんも来るはずもない。いつも1人で目を覚まし、1人で目を閉じる。今日もまた1人で目を覚ますのか。
「起き…た?」
「…誰だ?」
人がいた。ぽやーんとした奴。隙がありすぎて、こっちも警戒を解いてしまいそうになるそんな男。
「あっ、起きたんだ。」
「ん…、チャラ男か。」
一瞬チャラ男の顔を見ても誰だか分からなかった。ただあの味噌汁の味だけは鮮明に残っている。だから薄っすらとチャラ男の顔を思い出せた。
「チャラ男って…、時雨敬吾。俺の名前、分かったかな〜?」
「…そいつ誰だよ。」
「無視?まぁいいや。この子は帳雫(トバリシズク)。病院の跡取り息子だからある程度病人の看病の仕方知ってるかな〜って思って呼んでおいたんだ〜。」
「ん…、俺、頑張るね。冬乃、いたいの、いたいの、とんでけ。」
俺は5歳児かっつうの。帳と言えば、聞いたことがある。かの有名な大学病院の委員長や理事をしているそうだ。うちの専属の医師も帳家の者らしい。
「それで、俺はいつ帰れるんだよ。」
「ん、5日は絶対安静。」
「何時までもこんなとこにいてたまるかよ。帰るから携帯返せ。」
「そういうのは大和君に言ってね〜。俺たち、君の携帯の居場所分からないからさ〜。」
昨日も同じパターンだったな。携帯諦めて帰るか。いや、そうなりゃ真斗を足に使えねぇし。ああ、もう面倒くせぇ。
「動くのメッ‼︎絶対安静‼︎」
「ちっ。」
舌打ちをして毛布をかぶる。
「あれ?雫君には素直に従うんだ。」
「ちげぇよ。どう足掻いても巽っつう奴がこねぇと帰れないんだろう。あいつが帰ってくるまで寝る。」
「ん…安静してる、いい子。」
頭を撫でられているのにこの能天気な男を殴れない。きっとこのふわふわとした雰囲気のせいだ。大人しくそのままふて寝していると次はトントンと背中を叩いてきた。
昔、母さんがしてくれてたやつ。落ち着いたわけじゃねぇ。ただ、少し眠くなるだけ。
「良い子。」
低音で優しい声が耳に響く。流れるようなその声にうとうとと意識が宙に浮く。
「敬吾、そろそろ飯作れ。」
しかし、それも途中で妨げられる。はっと目を覚ました俺は声の発信源を睨む。
「大和、大きな声、メッ‼︎」
「ん?…ああ、すまん。」
「ああ〜、せっかく冬乃君寝かけてたのに大和君のせいで起きちゃった〜。」
「不可抗力だ。わざとじゃない。」
「大和、悪い。謝るの。」
「…悪かった。」
居心地悪そうに頬をかきながら謝る男。それを見ながら、毛布に包まる。これはもう寝れないだろう。
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