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第36話
どうせなら雨が降ればいいのに。
そしたら、中止になるだろうと少し期待をしていたが、あいにくの晴天日和だ。
今日は文化祭当日。
山奥にあるという学園に行くには電車を乗り継ぎ、現地にあるシャトルバスに乗らなければならない。そうこうしていると移動だけでも1時間半はかかってしまう。
着いた時には既に1時近くを回っており、活気盛んな生徒たちの声が響き渡っていた。
「夏乃、言い忘れてたけど、髪くらい黒染めしてこいよ。」
「別にいいだろ。見た感じ髪染めてるやつ多そうだし。」
「それでも金髪はねぇだろ。」
だが、身の回りにいる生徒はみな明るめの茶髪ばかりだ。酷い奴は真っピンク。
それに、チャラ男の髪も赤茶だったし何よりもチャラチャラしていた。あれは夏休みだから浮かれてなんて可愛らしい理由ではないはずだ。
「いいんだよ。」
「まぁ、夏乃がいいならいいけど。で、どこ行くんだ?チケット貰った奴のとこ行くか?」
「しらねーよ。」
「知らねーって…。やっぱりどこでこのチケット貰ったんだよ。まっ、いいや。なんか食おうぜ。」
それからたこ焼きや焼きそば、フランクフルトに肉巻きやら、がっつりものを食べ尽くした。
「次どこ行く?食うもん食ったし、娯楽系の何かやってるとこ行ってみるか?」
「めんどくせぇ。」
「めんどくさいはないだろ。あっ、あのクラス射的やってる。夏乃、やってみようぜ。」
多々が目の前のクラスを指差す。“射的屋〈豪華景品あり〉”と書かれる看板が目に入った。
「ガキくせぇ…。」
「夏乃、負けんのが怖いのか?」
「あ?んなわけねぇだろ。行くぞ。」
多々の腕を掴んで引っ張る。クラスの入り口まで行こうとしたその時、アナウンスが鳴り響いた。
『これより、生徒会主催オリエンテーリングを開催致します。参加ご希望の方は体育館への移動をお願い致します。』
そして、周りにいた人間全てが目の色を変え、走り出した。射的屋とは反対方向へと体を押され、多々を掴んでいた手も呆気なく離れた。
「あっ、おいっ、夏乃。くそっ、後でメールすっから見ろよ。」
確実に押し流され、逸れるのを予期した多々は俺に大声でそう伝えた。
大量の人間に揉まれ、やっとの事で出られた頃には多々の姿はどこにもなかった。
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