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巽大和の話①

出会い 巽が中学生の頃の話。 数年前までこの街で雪という名を知らない者はいなかった。そのくらい雪は悪名高く、強かった。 その雪と行動する中坊。 それが巽大和。 中学生の割に既に体格は整っており、雪と並んでも気劣りしない程貫禄がある男だ。そんな彼らの短い話。 大和と雪が出会ったのは日。 大和がふらりとよった繁華街で雪は喧嘩をしていた。 圧倒的強さ。 無駄のない動き。 そして絶対的な王者の貫禄。 大和が雪に喧嘩を売ったのは好奇心。 それだけだった。 売られた喧嘩は買う。 雪と大和は殴り合いを始めた。 勝ったのは雪。 しかし、どう考えても年下の大和は相当強かった。雪が手を焼くほどに。 はて、どうするか。 当時の雪は母が死に、父が冷酷な人間に変わり、弟の接し方が分からずにいた。そんな彼のストレス発散場はこの繁華街。 おそらく、目の前の男は俺を倒すために繁華街で今後喧嘩をしまくるだろう。喧嘩慣れすれば俺といい勝負ができる筈だ。 しかし、そんなことされてしまえば、この繁華街は荒れてしまう。いや既に雪が相当荒らしているが。 喧嘩をふっかけてくる不良が一掃されてしまえば雪のストレス発散場が消えてしまう。それは困る。 うんうんと悩んでいると、目の前の男がのそりと起き上がった。あれだけ殴りあったのに意外にもピンピンしている。 「お前…不死身か。」 「ちげえよ。」 「名前は?」 「巽大和。」 巽大和…? どこかで聞いたことがある。 いや、聞き慣れている名前だ。 雪はふと思い出した。 巽だ。 自分の家よりもデカい家。 紛れもなく巽大和と言う名前は巽家の一人息子の名だ。 「お前…。いや、俺は雪だ。」 敢えて知らないフリをした。 いくら巽の家の坊ちゃんでも一般人が名前を知っているのはおかしい。それもこんな繁華街で喧嘩している人間が。自分が普通の一般人ではないと言っているようなものだ。それではこんな変装をし、不良ぶっている意味がない。 雪は頭を振って、自分は今はこの繁華街でヤンチャしている不良だと言い聞かせる。  「大和、この繁華街に来んのは初めてだろ。俺が礼儀ってもんを教えてやる。」 「頼んでねぇ。」 「お前がここで変に暴れられるのは困る。その代わり、喧嘩の仕方教えてやるよ。」 それから2人は繁華街で共に過ごすことになる。

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