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第61話
静かな空間。何も見えない。身体の自由も効かない。
「ここは…。」
腕を動かすとジャラジャラと金属がぶつかり合う音がした。
繋がれている?
足もそうだ。動かそうにも両足が繋がれているせいか上手く動かせない。目は布で隠されている。
見えない。
動けない。
…なんでこんな事になってるのか。
西山含め不良共に囲まれたのは覚えている。あらかた片付いた後に後ろから衝撃があった。西山の仲間だろう。となると、これからリンチにでもあうか。
思考を巡らせる中、キィっとドアが開く音が聞こえた。足音は1つ。こちらに向かってくる。
「目が、冷めたんだね。」
「誰だ、お前。」
聞き覚えのない声。顔は見えないが、知らないやつに違いない。
「ごめんね、こんなに拘束しちゃって。でも、拘束解いちゃったら暴れるでしょ?だから、少し我慢してね。ああ、でも、この布は外してあげる。」
目を覆っていた布が取れる。一気に差し込んだ光に目を細める。光に目が慣れる頃、男の姿を漸く見ることが出来た。
しかし、やはり知らない顔。いや、例え今まで接触することがあったとしても、覚えてはいないだろう。
それ程までに、目の前にいる男は平凡で無害そうな何処にでもいる見た目をしていた。
「僕のこと、覚えていないよね?僕の名前は津野田 雅治。」
「津野田…。知らねぇ。」
「そうだよね。僕が夏乃君と顔を合わせたのは一瞬のことだったから。でも、僕が瀬野って言ったら良い反応返してくれるかな?」
「瀬野だぁ?瀬野がお前みたいな平凡なわけないだろ。」
「そんなことないよ。僕は正真正銘の瀬野。君が探していた瀬野だよ。この見た目はあの学園で目立たなくする為だったんだ。津野田の姓も僕が瀬野ってわからなくするために使ってただけ。」
「なんで、正体を隠す真似を…。」
「瀬野は裏の稼業で有名だから。僕はさ、只の一般人として生きたかったんだよ。だから、誰にもバレずにこっそりと卒業して、一般企業に入るつもりだったんだ。でも、夏乃君に出会ってしまった。君が虐められていた僕を助けた時、僕は君に惚れたんだ。」
「あ?」
助けた…?こいつを?覚えがない。
「文化祭だよ。」
文化祭…?文化祭…。
去年の文化祭…。ハッと記憶が蘇った。
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