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第62話

去年、あいつらに誘われた文化祭。 眼鏡に会う前に絡まれていた男を助けた気がする。 いや、正確にはむしゃくしゃしていたからちょうどそこにいた奴を倒しただけだったが。 「俺が助けて、仮にそれで惚れたとして、なんで俺をここに連れて来る必要がある。」 「僕はね、君に惚れたんだよ。でもね、僕が惚れたのは一匹狼の独りで強がってる君だったんだ。 気付いたのは君が生徒会に入った時。生徒会の連中と一緒にいるという事よりも、生徒会の連中を頼る君に怒りを覚えた。 だから!!だから、また独りに戻って貰おうと思ったんだ。大変だったよ。生徒会の幼馴染を騙して君を陥れるように仕向けるのは。」 「…っ?仕向けた…?」 どういう事だ。 二階堂萌斗は留学から帰ってきた転校生だ。二階堂萌斗が俺を陥れたのはなんとなく察していた。 俺のやっていた仕事も全校集会の件も生徒会がわざわざ俺を陥れる為にやったとは考え難い。 生徒会室に入れる人物であり、かつていた居場所を奪った俺を恨んでいる二階堂萌斗が怪しむのは必然だろう。 だが、それを仕向けたのが瀬野だというのか 「どうやって仕向けたんだ。いや、その前になんで俺がお前を助けた人間だってわかったんだ。」 多々にすら誰だと言われるほど上手く優等生らしくいられた筈だ。なぜこいつは俺が俺だと分かったんだ。 「僕が夏乃君だって分かった理由? そんなの決まっているだろう? 君を アイシテイルカラ に決まっているだろ?」 耳元で甘くもドロドロと溶けてしまいそうな低い声で呟かれる。ゾクリと体が反応する。 「仕向け方は簡単だよ。二階堂君が嫉妬深い性格だって知ってたからね。SNSで通じてちょっとつついてあげたんだ。 君の大事な居場所が取られてるよってね。 そしたらすぐに帰ってきちゃって。計画通り過ぎてもう笑えなかったよ。その後は全部二階堂君が勝手にいろいろやってくれた。 そして、君は生徒会を辞めた。 嬉しかったなぁ。あの時の夏乃君は昔に戻ったみたいだった。僕はあの時点では君をどうこうする気は無かったんだよ。寧ろあのままずっと独りで生きていく君を見れるのだと思うと歓喜したよ。」 うっとりと目を細めた瀬野は嬉しそうに微笑む。だが、急に無表情になるやいなや、冷たい瞳でこちらを見つめてきた。

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