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第63話

「でも、野原多々は君に寄生し続けた。 ああ、忌々しいよ。 彼さえいなければ君は強いままでいられたのに。 弱い夏乃君に興味はないんだ。 だからね、独りになってよ。 堕ちて? 堕ちてよ。 大丈夫。 僕が手伝ってあげる。 もう、生徒会も野原多々にも邪魔させない。」 頬を撫でる手を振り払うように顔を横に振り睨みつける。 「俺は多々がいたって強ぇよ。ふざけるな。」 「でも、堕ちない。」 「堕ちるだと?」 「そう、全てに絶望した顔。光の入らない瞳が綺麗なんだよ。そして、何も考えず喧嘩する君は強い。 その証拠に今の君は僕に簡単に捕まった。昔ならそんなことなかった。 許せないな。 君をこんなにした野原多々は。 まぁ、いいや。安心して。君には一生野原多々や生徒会に近づけない身体にしてあげるから。」 「俺をサンドバッグにでもするか?」 「そんなことするはずがないだろ?もっと簡単で気持ちいいことだよ。」 「は?」 「おいで。」 手首を掴まれ、無理矢理立たされる。塞がれた足は縺れ上手く歩けない。 ヨタヨタと歩き、白いベッドに近づくとドンっと体を押された。 ノシリと瀬野は俺に跨る。 「夏乃君、夏乃君…。僕の夏乃。」 瞳の奥の自分は情けない顔をしている。その瞳から自分が消えた時、瀬野の唇は俺の唇に触れた。 「んぅ‼︎」 俺は何をボーッとしているんだ。はっとして塞がれた腕のまま瀬野を押す。しかし、ビクともしない。 徐々に口内も荒らされていく。 舌と舌が絡まり合い、だ液が混じり合う。なんとかこの状態から脱そうと、歯を突き立て思い切り噛んだ。 力が緩まった一瞬を狙って頭突きをしてやった。 「俺は、男だ。キモいことすんじゃねぇ。」 「ふふふ。痛いなぁ。君のそんな所好きだよ。でも、君を堕とすにはこれが簡単なんだよ。少し我慢して?」 「こんな事で俺が負けるかよ。」 「勝ち負けではないけど。でも、初めてを巽大和以外に奪われるのは夏乃君にとって絶望すべき事なんじゃないかな?」 「は?なんでそこであいつが出てくるんだ。」 「だって、夏乃君は巽大和が好きだろ?」 「ふ、ふざけんな。勝手な勘違いしてんじゃねぇ。」 「耳真っ赤だよ。図星かな?」 俺があいつを好き?そんな馬鹿な。馬鹿な…。 「自覚なかったんだ。それなら、言わなくても良かったかな。」 俺様男を思い出す。あいつは横暴だ。俺様だし自分勝手だ。俺が冬乃だってことも気付かないし、優しくもない。好きになる要素なんてどこにもありはしない。

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