68 / 127

第68話

翼side 立ち上がる夏乃を追いかけるように出て行った巽。それを野原君は心配そうに眺めていた。 「野原君、巽なら夏乃を連れて帰ってきますよ。座ったらどうですか?」 「…ああ、はい。」 それでも、扉を見つめる野原君は相当心配性なのだろう。見兼ねた敬吾が温かいお茶を入れた。 「はい、これ。取り敢えず、落ち着いたら?君、怪我も治ってないみたいだし。」 「そう…ですね。」 野原君が落ち着いたのを確認して、先程からこちらを睨みつけてる狂犬に目をやる。 瀬戸真斗ーー 瀬野に並ぶうちの学園の問題児。いや、瀬野に比べたらまだ行動範囲が分かりやすい。対応がしやすい分瀬野に比べてまだましだけれど。 「瀬戸君、何か言いたい事があるようですね。」 「…さっきからごちゃごちゃ言ってるが、結局二階堂萌斗が元凶だろ。言い訳云々はどうでもいい。二階堂萌斗の処分はどうするつもりなんだ。まさか、何もしないとかふざけたこと言うなよ。落とし前、つけろや。」 「まるで極道のような言葉遣いですね。…萌斗の処分はまだ考え中です。ただ、決定事項として、生徒会に関わる事は一切禁止させます。」 「あ?それだけか?」 「それと、萌斗の父親にも今回の件は伝えることを決めました。」 「あめーな。」 甘いだろうか。他の人から見たらもしかしたら甘いのかもしれない。でも、暴力事件でもあるまいし、退学や停学処分に致す事はできない。 …それに幼馴染として彼をこれ以上追い込むのは心苦しい。 「つばさ、虐めるの、めっ。」 ずっと黙ってた雫が瀬戸君に向かってふるふると首を横に振った。 「萌斗、ね。大和、好き。離れるの辛い。十分、重い罰。」 確実に、言葉を紡いでいく。 “萌斗は大和が好き” 幼馴染の間で確かに共有していた事実。 「雫の言う通り。萌斗はねぇ大和が好きなんだよ。生徒会に関わらないってことは大和くんにも当分会えなくなる。 それどころか、父親に言ったら最後、大人になるまで大和君にも会わせてもらえなくなる可能性だってあるんだから。 君達だって夏乃君に会えなくなったら辛いでしょ?それと一緒。」 瀬戸君は眉を潜め無言になる。恐らく、敬吾が言いたい事がわかったのだろう。 「ねぇ、そろそろ大和君とか夏乃君も帰ってくるしご飯、食べよーか。」 ぽんっと手を叩いた敬吾が立ち上がると、キッチンへ向かった。味噌汁の香りが部屋に充満する。 間も無く、巽と夏乃が部屋へと帰ってきた。夏乃の眼は赤く染まり、涙のあとが残っていた。 「夏乃君、おかえり。ご飯、食べよっか。」 「ん。」 敬吾が持ってきた夕飯は味噌汁に合わせてか、和食だった。食器のあたる音だけが広がる部屋の中で、夏乃はポツリと言葉を漏らした。 「うめぇ。」                 翼side end

ともだちにシェアしよう!