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第74話
「おいっ、夏乃。大丈夫か?なんか体調悪そうだぞ。」
「知らねぇ、気のせいだ。」
「はぁ、顔真っ青だけど。」
「気のせいだ。」
多々が心配そうにこっちを見ても顔を背ける。原因は分かっている。
今朝見た夢だ。
あの夢を見てからどこかソワソワしている。
ソワソワ、モヤモヤ。
よく分からない言葉にできない気分だ。
「夏乃、お前また一人で背負うのか?俺を頼ってくれないのか?」
多々はこちらをじっと見つめる。
そんな目で俺を見るな。
その捨てられた犬のような目で。
「夏乃…。」
「だぁぁぁぁ!!分かった、わかったから、そんな目で俺を見るな。んぅぅぅぅぅ…あー、うー、す…。」
「す?」
「んんん、す、すきってなんだ…。」
「は?すっ、好き?なんだ、なんだ、どうした夏乃。…まさか熱か?」
考えていた通りの反応。だから言いたくなかったんだ。頭をぐしゃぐしゃとかき回す。
「夏乃…、すまんすまん。あまりにも予想外っつうか、夏乃らしかぬ単語が出て驚いただけだから。ほらっ、詳しく教えてくれよ。」
子供の面倒を見るような態度がイラつく。ただ、俺は言葉を濁しながらも言葉を放つことを決めた。
「…瀬野の言葉が頭から離れないんだ。昨日からずっと夢まで見やがる。」
「瀬野になんて言われたんだ?」
「それは…言えない。」
「そうか。まぁ、何となくお前が何に悩んでるのか分かった。
それで、好きって何かだっけか。
…俺が思う好きってやつはこう、ずっと見つめていたいとか、自分を見てて欲しいとか、あとは〜ソワソワしたりドキドキさせられたりとかじゃねぇの?」
「なんだそれ。意味わかんねぇ。」
「まぁ、なんだ。例えば自分じゃない誰かと好きな奴が一緒にいたら嫌だろ?でも、自分が好きな奴と一緒にいれたら嬉しい。結構単純だよ。」
好きな奴が自分じゃない誰かと一緒にいる…?
思い出される今朝の夢。
二階堂萌斗と、あいつ。
あの俺様な男。
嫌?
ー嫌だ。
嫌?
ーいや、嫌…。
「んなっ、違う!!俺はあんな俺様好きなわけがねぇ!!」
「あっ、おいっ、夏乃!!どこ行くんだ!!」
「サボるっ!!」
走って教室を出る。
俺があいつを好き?
んなわけないだろ。
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