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第76話
自室のベッドの上でジタバタと悶える。
「あぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁ‼︎」
枕を顔に押し付け思いっきり叫んだ。
はぁはぁと息を整え、頭を振る。
俺は、これからどうすればいいんだ。
気持ちは捨てられない、でもそれを言葉にするなんて出来ない。
そもそも、俺がこ、こ、告白なんて柄じゃねぇし…。
でも、だからって、あいつを二階堂萌斗に渡したくない…。
「あああぁぁぁ、だからなんだ、俺は乙女か‼︎こんなの俺じゃねぇ。俺じゃねぇ…。」
「夏乃?さっきから叫び声が聞こえるが大丈夫か?」
ドアの外から兄さんの声が聞こえた。
外まで漏れてたのか。熱が顔に込み上がる。
取り敢えず、深呼吸。心を落ち着かせ、あいつのことは頭の隅に追いやってからドアを開けた。
ドアの前には、仕事帰りのスーツ姿の兄さんが心配そうにこちらを伺っていた。
「何か、あったのか?」
「いや、何も…。」
だから、多々も兄さんもなんでそう、犬みたいな目をするんだ。
確かに心配は沢山かけたけど、今回の事は流石に言えないだろ…。
言えない…。
流石に…。
「ゔぅ…その、兄さんはまだ結婚しないのか?」
「結婚?いずれはするだろうが、まだする予定はない。親父に何か言われたのか?」
「いやっ、それはない。けど、その、あっ、兄さんは誰かと付き合ったことはあるのか?」
「誰か?幾度かそんな関係の女性はいたな。」
「どうやって付き合ったんだ?」
「…?相手から付き合ってくれと言われて承諾した。」
ああ、そうだった。
兄さんが誰かに告白する筈なかった。ハイスペックな兄を周りが放っておく訳もない。告白する前に告白される。
「夏乃、好きな奴が出来たのか?」
「はっ、そ、んな…なんで…。」
「話の流れからして、誰かを好きになったが告白する勇気がないってところかと。」
「んなっ。」
ぶわぁぁぁと顔に熱が篭る。
そんなに分かりやすかったってか。
あああ、くそっ。
「…夏乃、お前はそのままでいればいい。
お前の魅力はそこらへんに転がってる奴とは違う。取り繕う必要もない。
もしも、それで相手がお前の魅力に気づかないのであれば、それは相手が悪い。お前には身合わない。」
ここまで弟を褒める兄というのもなかなかいないだろう。
そもそも、そんなに褒められるほど俺は出来た人間ではない。
「とんだ兄バカじゃないか。」
「兄バカ?何を言っている。事実だろう。それに思ったことは正直に言うって決めたんだ。お前に勘違いして欲しくないしな。」
「…。」
恥ずかしいことをよく言う。こんなんだから、知らない間に女を誑かすんだ。
でも、そうか。
俺は変わる必要はないのか。
そっか…。よしっ。
「兄さんありがとう。俺は俺らしく頑張る。」
「ああ、いつでも、相談に乗る。困ったことがあれば、頼ってくれ。」
頭を撫でられ、兄さんは去っていった。そして、俺は一つ決めたことがある。実行するために眼鏡にメールを打つ。
「俺は俺らしく。」
もう、真面目になんて出来ないけど。
それでも…。
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