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第78話

生徒会に戻って1ヶ月が経った。 あれから巽との関わりは全くといって変わっていない。アピールなんて小っ恥ずかしいことを俺がする訳もなく、ただただ過ぎていく日常にヤキモキしていた。 だが、そんな日々が一瞬で消え去るような出来事が唐突に起こった。 放課後。 いつものように生徒会の仕事をしていた。 巽の横顔を睨みつけながら、今日もどうすればいいのかを考える。 「夏乃、何故巽を睨みつけてるんですか。何か恨みでもあるんですか?」 「…何でもねぇ。」 橘に突っ込まれて、睨みつけるのを一回やめる。どうするか。あいつにアピールなんて死んでもしたくねぇ。かといって告るなんて… 「あぁぁぁぁぁ‼︎」 ぐしゃぐしゃと頭を掻き回す。 「な、夏乃?」 「何でもねぇ!!」 あー、もう知らんっ。仕事だ仕事!! パソコンに目を移そうとした瞬間、横に置いてあった携帯が震えた。 「ん?」 画面に映されていたのは古くから仕えている使用人の名前。普段は掛からない人物からの電話に不思議に思いながら、電話に出た。 「なんだ?」 「夏乃様、落ち着いて聞いてください。吹雪様が、吹雪様が事故に遭われました。」 サーっと血の気がひいた。 兄さんが、事故…。 頭が回らず、真っ白になる。 ピタリと固まった体。 「おい、どうした。」 巽の声でハッと意識が戻る。 そうだ。まずは、兄さんの元に行かなければ。 電話から聞こえる使用人の声も生徒会連中の声も聞からないで、無我夢中で運ばれたという病院へと走った。 病室に入ると、包帯を頭に巻いた兄さんがそこにいた。 「だ、大丈夫なの…か。」 「大したことはない。頭を少し切ったが軽くで済んだ。優秀な運転手のおかげだな。」 「そう…なのか。」 心臓が止まるかと思った。 その場で腰を下ろして、息を整える。 「心配してくれたのか。ふっ。」 「なんで笑ってるんだ。笑い事じゃねぇだろ。」 「お前に心配されるのが嬉しくてつい…な。夏乃、こっちにこい。」 照れ臭い言葉に顔を背けるものの、怪我人である兄さんの願いだと自分を説得して、素直にベッドに近寄った。 兄さんは俺の頭を撫で、コツンと額を俺の額に合わせた。 「心配させて悪かったな。でも、安心しろ。俺はそう簡単には死なない。だから、そんな顔をするな。」 自分が今どんな顔をしているのかなんて知らない。 でも、兄さんが事故で死んでいたかもしれないと思うと、どうしようもなく息が止まりそうになる。 目蓋を閉じて、すぅはぁと息を吸う。 「俺、父さんしかいなくなるのなんて嫌だからな。」 「ははっ、そうだな。」 その後は何も話さなかった。 ただその日は無理を言ってずっとずっと兄さんのそばにいた。

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