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第80話
生徒会室に急いで入ると、巽以外が揃って中で仕事をしていた。
いつも通りの風景に胸を下ろす。
「夏乃、どうしたんですか?あなたがこの時間から生徒会室に来るのは珍しいですね。」
「いや、それより巽はどこだ。」
「巽は今、家の仕事でいませんよ。昼には戻ると言っていましたけど、急用ですか?」
「あぁ、いや、巽だけいなかったから気になっただけだ。」
家の仕事ならボディーガードも側にいるだろうし、なによりあいつ自身が強いんだ。
心配する必要はないか…。
その時、ブーブーっとバイブ音が室内に響いた。
「失礼、私です。」
橘が席を立って窓際に近寄る。ヒソヒソと言葉を交わしていたが、急に大声を上げた。
「今すぐ行きます。」
橘の顔が真っ青で血色が悪い。
カタカタと手が震える。
いやな予感がする。
いやな予感が…
「お、落ち着いて聞いてください。巽が、巽が腹部を刺されて運ばれたそうです。」
ガタンと膝が床につく。
あいつの声がする。
あいつのねっとりした声が聞こえる。
『だから言ったのに。次はないって。ね?夏乃君。』
「あぁ、ぁぁぁ。」
「夏乃、大丈夫ですか?気を強く持ってください。巽ならきっと大丈夫ですから。ほらっ、顔をあげて。」
そうは言っても橘の顔はなおも青白い。
俺は、おれはどうすればよかったんだ。
どうやって外に出たかわからない。
ただ、タイミングよく電話がかかってきた。
知らない番号。
でも、俺はその電話の先にいる奴を知っている。
『出てくれた。半信半疑だったんだ。出てくれるか。』
「瀬野…。お前か、全部お前の仕業か。」
『そうだと、言ったらどうする?』
「殺す!!殺してやる。」
『ふふっ、夏乃君が僕のことを考えてくれて嬉しいよ。でも、夏乃君。いいの?君が僕を殺す前にそうだね、あと3人くらいは大怪我、もしくは死んじゃうかもしれないけど。』
「ざけんな!!」
『ねぇ、これ以上夏乃君も誰かが傷つくの、いやなんじゃない?』
「何がいいたい。」
『今日の夕方5時、最寄駅近くのコンビニに1人で来たらいいよ。そしたら、君の大事な人たちに傷はつかない。』
そのまま途切れた電話。
無音の音が静かに響く。
どうしようなんて考えない。
答えは初めっから一つしか用意されていない。
兄さんにメールをうつ。
暫く帰らないこと、心配しなくてもいいこと。
そして、俺は巽に会いにいくことにした。
自ずと学校は休むことになる。
まぁ、でもいいだろう。
真斗や多々にも連絡を入れて、巽の入院する病院へと向かった。
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