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第81話
本来なら家族以外の面会は禁止されている。
でも、帳の家が経営する大学病院らしく特別に入れてもらった。
横たわる巽。
らしくない姿だ。
いつも、いつだって、不敵に笑って立ちはだかっているというのに、今日はベッドの上で眠っている。
自然と拳に力が入る。
「ふざけるな。ふざけるなよ。」
やっと気づいた恋心というもの。
どうやって実らそうと悩んでいた。
でも、素直になれない俺に告白なんて無理がある。
だから、告白は諦めて、取り敢えず側にいるだけで満足してた。
「こうなれば近寄ることだって臆病になる。」
白いベッドにシミができる。
唇を噛み締めて、巽の頬を撫でる。
「ははっ、俺はどこの乙女だ。」
なぁ、今なら言える。
言える気がするよ。
唇を押し当てる。
絶対に気づかれないように、そっと。
目を瞑ったまま。
「好きだーーー」
「待ってたよ。夏乃くん。」
相変わらずキモい笑顔を浮かべる瀬野に腕を掴まれ、車に押し込まれた。
「次は誰をやろうか悩んでいたんだけどね。」
「…っ、ふざけるな。あいつらに手ェ出してみろ!!殺してやるっ!!」
「夏乃くんが大人しく僕の言う通りにしててくれれば、何もしないさ。」
ニコニコと笑う瀬野にはいっと薬を渡された。なんだ、と目をやるとふふっと瀬野は笑った。
「変な薬じゃないよ。ただの睡眠薬。手筈めにそれを自分で飲むんだよ。それで夏乃君が僕の言う通りになったっていう証明にしてあげる。」
「…飲めばいいんだな。」
ゴクリと唾を飲む。変な薬ではないと言われても信用になんてならない。でも、あいつらのためだ。
「水は?」
「ああ、そうだったね。」
渡されたペットボトルの水を飲み干して、薬を一緒に口の中に放り込んだ。特に身体に異常はない。
段々と眠気が襲ってくる。
瀬野の言う通りただの睡眠薬だったか。
まぶたが下がってくる。
「夏乃君、おやすみ。」
俺はそのまま意識を手放した。
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