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第87話
徐々に冷静になっていく頭は、たった今あった出来事になんでだと告げてくる。
おかしい、おかしいのは分かっている。
でも、俺は快楽に勝てなかった。
「ああ、そうだ。夏乃くん。いいこと、教えてあげる。」
愕然とする俺に瀬野はさらなる衝撃を与えた。
「さっき西山から連絡が入ったんだけどね。巽大和、死んだらしい。」
「は?」
「だから、死んだみたい。取り巻き連中がワーワー騒いでて、敵討ちだって躍起になってるみたいでそろそろ瀬野に辿り着きそうで面倒なんだよね。」
死んだ?
死んだってなんだ。
巽が?
死んだ?
嘘だ…だってあいつはいつだって不敵に笑ってて…。
簡単に死ぬわけなくて…。
「嘘だ…、、、嘘だあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!嘘だ!!嘘だ嘘だ嘘だ!!ありえねぇ!だって、あいつは!!あいつは!!死ぬわけないだろ…?」
「夏乃くん、残念。諦めなよ。」
恐ろしく冷たく笑う瀬野に現実なのだと知る。
俺はまだ好きだと言っていないのに。
会長として仕事をするあいつを、街を見下ろすあいつを、不敵に笑うあいつを、いつかまた見るんだってそう思ってたのに。
俺は、俺は…。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
溢れ出てくる涙は止まることなく流れていく。
喉が枯れても、叫ぶことはやめられない。
あいつとの過ごした時間が蘇っては消えていく。
どんどん暗く黒く塗りつぶされていく。
黒色のクレヨンで塗りつぶすかのようにグルグルと掻き回してくる。
「ああ、あぁぁぁあぁぁ。」
真っ白な紙が黒く塗り潰されたとき、俺の思考はピタリと止まった。
「夏乃くん、ああ、あぁ、あぁ、やっと染まってくれたね。ふふっ、そう、それだよ。夏乃くん。その眼だよ。絶望で、光が通らないその眼。ああ、そうだ。僕が望んだ夏乃くんだ。」
開かれた瞳をうっとりと眺める瀬野。
冷たい指が頬を滑る。
眼を奪われる。
奪われる。
奪われた。
全てをーー
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