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第90話

「へー、瀬戸の一派と組んだのは知っていたけど、まさか巽大和まで出てくるとは思わなかったよ。」 「瀬野…。」 車の影から現れた男は冷たい目でこちらを見つめる。 「嫌な予感が的中した。良かった、戻ってきて。ねぇ、夏乃くん。いいの?そこにいて。君がその車に乗らないと、友達が、巽大和が傷つくよ?」 「随分と甘く見られたもんだな。」 「確かに君の怪我が完治していたら僕に勝ち目はなかったかもしれないね。でも、まだ絶対安静のはずでしょ?今の君なら僕にだって勝てるさ。」 瀬野は拳を握りながら走ってくる。俺は咄嗟に前に出ようとした。だが、肩を掴まれ、後ろへ引かれる。 「はっ、怪我がなんだ。関係ねぇよ。」 瀬野の拳を交わし、巽は回し蹴りを決めた。俊敏な動きは怪我人とは思えない。だが、巽はぐっと脇腹を抑えた。 「おいっ、巽っ。」 「黙っとけ。」 「病院っ!!はやくっ!!」 「まだだ。」 瀬野は蹴られた腹を抱えながらも立ち上がる。その表情は余裕そうだ。こんなの、巽の方が不利だ。 俺は、俺は何をしてるんだ。 なんで、なんで守られてばっかりなんだよ。 やっぱり俺は、俺は…。 「夏乃。この俺にキスする度胸がお前にはあるんだろ。なら、そこでドスンと構えとけ。」 「はっ…?」 キス…? キスって…。 ぶわぁぁぁぁと上がっていく体温。 顔が赤くなる。 「瀬野、悪いがこいつは渡せねぇ。諦めろ。」 その後、何が起こったか分からない。 ただ、 バレていたあの あれを キスを バレていた。 それだけに思考が持っていかれて、何も考えられなかった。 気づいた時には瀬野は地面に倒れていた。 「…いっ、おいっ、夏乃。」 「お、おまっ、お前、起きて…。」 「ふっ、お前の熱烈なキスのおかげで目が覚めた。」 「熱烈って…そこまでしてねぇ‼︎」 ただ、くっ付けただけで…。 いや、違う。 待て待て。 まさか、俺の好意に気付いてしまったか。 た、確かに意を決して好きだと伝えた。 でも、あの状態だ。 絶対に意識は朦朧としているはずだし… そもそも俺はまだ心の準備をしていない!! 「あ、あれはただ、こうっ、滑っただけ…。」 苦しい言い訳が終わる前に腕を引っ張られた。 そして、唇が突然塞がった。 なんで塞がったってあれだ。 巽のあれが重なって。 あれって、唇だ。 唇と唇が重なったって、つまり…? ーーーキスだーーー 思考が急速に周りはじめ、巽を突き放す。 「な、な、な、何して!」 「滑っただけだ。」 「んぬぅ…。」 なんでだ、どうしてキスなんかなんて、頭の隅で考える。 だがその前に、キスした。またキスできたって、脳内がお花畑になっている。    嬉しさや喜びが勝ってしまっている。 顔にまでそれが出ないように顔を引き締めようとするとき、巽は俺の頭を優しく叩いた。 「お前を引き留められなかったことを後悔している。あの時、右腕が動けばお前を行かせなかった。」 「…。」 「ただ、もう何があっても俺はお前を離さない。」 「な、なんで…。」 「ふっ、さぁな。」 なんだ、なんだ。 ま、まるでこれじゃあ、こくはく…。 「まるで告白だね。でも、許せないな。」 それを発したのは倒れていたはずの瀬野だった。 瀬野の右手には銃が握られており、銃口はこちらに向いていた。  巽を庇おうと腕を引っ張る。 しかし、その力は強く逆に抱きしめられた。 そして、パンッと大きな音を立て、撃たれた。

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