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第91話

咄嗟に閉じた目をそっと開ける。 抱きしめられた腕はまだ力強い。 身体に衝撃はない。 「間にあったか。」 聴き慣れた声がその場に響いた。 兄さんだ。 兄さんは瀬野の手に握られていた拳銃を突き飛ばし、瀬野を拘束していた。 「瀬野。もう終わりだ。瀬野の家は警察に取り押さえられている。」 「おかしいな。うちは被害者だよ?瀬戸にいきなり攻められた。」 「分かっているだろ。今回の件は瀬戸の者は一切を見逃される。その代わり瀬野の家は取り潰しだ。」 「流石、巽と一ノ瀬は違う。細工をしたね。」 「細工などしていない。お前らの元々あった悪事を暴いただけだ。」 その後、警察が来ると呆気なく瀬野を連行していった。 一瞬見た瀬野は、落胆でも諦めでもない、ただ不気味に笑っていた。 「兄さん…。」 「夏乃。」 兄さんは瀬野が連行されるのを見届けた後、俺を抱きしめた。 「なんでここに…。」 「お前を助けにきた。…それで、なぜお前がここにいる。大和。」 巽に目をやる。 心なしか巽にいつもの余裕が伺えない。 「雪さん…。」 「絶対安静と言われていただろ。まぁ、いい。病院に戻るぞ。」 「兄さんと巽は知り合いなのか?雪ってなんだ?」 「あっ、いや…ちょっとな。」 まぁ、社交界で会っているだろうし、知人なのは間違い無いか…。 にしても、雪さんって…渾名か? 「夏乃も病院で精密検査だ。それが終われば、夏乃が聞きたいことを全て答えよう。」 ーーー 精密検査の結果。 思考を鈍らせる薬や性欲を高まらせる薬の投与があったと言われた。ただ、特に身体に害はなく後遺症も残らないだろうとのこと。 しかし、念には念にと1週間の入院が決まった。 あれから3日。 1日目は泥沼のように眠り、2日目は検査。 そして今日は、俺の病室に兄さんと多々、真斗、そして橘が訪れた。 「なんでこの組み合わせなんだ。」 「特に意味はないです。巽は病室で隔離されて、敬吾と雫には学園のことを頼んであるので来れなかっただけです。」 「傷が広がったのか?」 「傷…?あぁ、巽ですか。ええ、全然ピンピンしてますから心配しないでください。病室から飛び出したのが両親にバレて、無理矢理隔離されているだけなので。」 そうか、あいつは何ともなかったのか…。 ホッと息を撫で下ろした。にしても、本当にあんだけ暴れといてピンピンしてるとか、化け物かよ。 このメンツで来た理由は分かった。で、なんでこのメンツに繋がりがあるんだ。特に橘と兄さん。 「夏乃、詳しくは俺から話すよ。ついでに、夏乃が監禁されてた間の話もさ。」 「多々…。」 まぁ、知れるなら誰でもいいか。コクリと頷くと、多々は語り始めた。

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