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第96話

「待て、瀬野とは誰のことだ。」 ああ、そうか。吹雪さんは知らないのか。 「瀬野は裏社会でトップかその次に位置する家だ。」 「瀬野…。裏社会…。っ、まさかあの瀬野か。最近騒がしくしている。だが夏乃になんの関係がある。」 「そこの坊ちゃんに気に入られたんだろ。」 「でも大和くん、翼くんも言ってたけど、普通夏乃君が自ら瀬野の車に乗るかな?」 会計の言う通り。 夏乃は一度拐われている身。容易に車に乗るわけがない。吹雪さんの話だと無理やりというわけでもないし。 「雪さん、あんた事故ったんだろ。起こした奴は調べたか?」 「ああ、ただの一般人だったが?それが何かあるのか。」 「俺を刺した奴も一見巽の家に恨みを持つだけのただの男だった。だが、再度調べると瀬野に通じていた。」 「なんだと?」 「よく調べてみろ。瀬野に通じてる可能性は十分ある。おめぇらも夏乃がいなくなる前に何かあったんじゃないか?」 何か…。 夏乃がいなくなる前…。 はっと、思い出す。 「植木鉢が上から降ってきたな。それに真斗は階段から突き落とされてた。」 夏乃にその話をした時、かなり動揺していた。 まさか、あれは…。 「脅されていたのか。」 思わず漏れた言葉は間違いはないらしい。 そう考えられるのが妥当だと会長は言った。 まさか、あれで夏乃を追い詰めていたとは思いもしなかった。 「状況的に考えて、瀬野が1番怪しいか…。」 吹雪さんはポツリと呟き、出口に繋がるドアへと歩き出す。 「吹雪さん!どこに…。」 「瀬野を潰しに行く。一ノ瀬の全ての財力を使って奴らを抹殺する。」 「待て。今瀬野に手を出すのは賢明じゃない。そもそも瀬野の本家に夏乃がいるとは限らない。」 「本家を潰せばその瀬野の坊ちゃんも表に出てくるだろ!!」 「それが早計だっつってんだよ。瀬野を一躍上にのし上げたのは瀬野雅治。瀬野の坊ちゃんなんだよ。それも、今や表企業の秘密を握ってやがる。おそらく一ノ瀬もそして巽の家の秘密もな。何万もの従業員を露頭に迷わせたくなければ落ち着け。」 「俺は、夏乃の方が大事だ。」 「あいつがそれで喜ぶってんなら、勝手にすれば良い。」 吹雪さんは掴んだドアノブを離した。 拳から血が滴り落ちるほど握りしめて、会長を睨みつけた。

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