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第106話

そして、1ヶ月がたった。 学園は文化祭一色。生徒会は戻らない会長のせいで大忙し。俺も仕事をサボるなんてことは出来ず、廊下を走り回っていた。 巽とは結局会っていない。進展なんてもちろんない。 「こうなったら文化祭で告白だな。」 「あ?てめぇ、多々。ふざけんな。」 俺はなんで多々に相談なんかしてしまったんだ。 茶化されるのを分かっていたはずなのに。 取り敢えず、イラついたから足を蹴っておく。 「そう言えば、昨日吹雪さんと親父さんとで墓参りに行ったんだったよな?どうだった?」 「どうもこうも特に何もない。」 母さんの墓参り中誰一人喋らなかった。側から見れば異質だっただろう。ただ、久しぶりに家族揃っての外食をした。そして、父さんは一言、また墓参りに行こうと告げた。 「その顔は良いことがあったみたいだな。」 「別にねぇよ。」 「で?家庭の悩みも終わったことだし、後は恋に素直になるだけだな。」 今度は、多々の頭を本気で殴った。 俺は今恋だなんだしてる暇なんてないんだ。 こちとら文化祭で忙しいんだから。 「えっ、なんでいんだよ。」 「いちゃ悪りぃかよ。」 生徒会室に入ると資料を見つめる巽がいた。退院はもう少し後だと聞いていたが。 「俺がいねぇと生徒会が回らないだろ?」 「戯けたことを言わないで下さい。あなたは病院から追い出されてここにいるのでしょう。私達が無理に頼んだような言い方しないでください。」 奥から出てきた橘が呆れた目で巽を見つめる。 「そうだったか?」 「看護師を誑かしたうえ、平気で病室から抜け出す。医者にしてみれば迷惑極まりない患者だったでしょう。」  「俺はいつでも退院できたんだ。それをいつまでも引き止める方が悪い。」 「まぁ、こちらも今は猫の手を借りたいくらい忙しいので、とやかく言うつもりはありませんが。一応退院したばかりなので生徒会室内でできる仕事だけして下さいね。」 全くもうっ…と呟きながら橘は仕事をする為に出て行った。 俺はもう一度巽と向き合う。 こいつには聞きたいことがある。 あのキスの意味を。 でも、でも、まだ心の準備が…。 いや、男だろ。 勇気を見せろ。 「巽!!おまえ、き、き、き…。」 「き?」 「き…。」 勇気を出して!!さぁ!! 「き、傷の様子はどうなんだ。刺されたんだろ!!」 「あ?見るか?」 ワイシャツをペロリとめくり、塞がった傷を見せられる。やはり傷は残るのだろう。痛々しい跡がそこには残っていた。 って!そうじゃない!聞きたかったことは別にあって…。いや、これも聞きたかったけど。 だから、だから俺は…。 「大和くん学校来てるって聞いたんだけど〜…って、ごめん。取り込み中だったぁ?」 「おそ…われ?」 ニヤニヤしている時雨とキョトンとした顔の帳。巽は未だに自分のワイシャツをめくっており、俺はそれを覗いている。側から見たら襲って見えるのだろう。 「って、襲ってねぇ!ただ、こいつの傷の具合をだな。」 「はいはい。分かってるよ〜。じゃあ大和くんが来てることは把握出来たから俺らは帰るねーん。」 「夏乃、ファイッ!!」 ファイッじゃねーよ!なんだよ、ファイッて!! 再度巽を見るがもうなんか聞ける状態じゃない。 あぁぁぁぁ!!もう良い! 「夏乃、どこに行くんだ。」 「仕事。まだ残ってんだよ。お前は生徒会室で大人しくしとけ。ばかやろう!」 イライラしながら生徒会室を出た。

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