24 / 121
8月 part 2-4
「…なあ七星。それでも、お客様を殴るなんて、バーテンダー失格だよ。
だから、俺がおまえを鍛えなおしてやる。閉店後、俺と一緒にここに残れよ。おまえの根性、叩き直してやるから。
そのかわり、おまえの舌を使って、俺のカクテルの問題点や課題を教えてくれよ。
おまえは俺の、俺はおまえのライバルだ。…ってのは嫌か?」
ああもう、なんで俺はこんな言い方しかできないんだ。
まずは謝らないと。それから、お礼言わないと。つーか、凡人の俺とライバルなんて、おこがましいよな。やらかしたかな。
恐る恐る七星を見て…俺は思わず息を呑んだ。
七星は、ほおに涙の筋を残したまま、喜びを隠しきれないというように微笑んでいた。
下がった眉。細めた目。口角を上げ、唇の隙間から僅かに見える白い歯。まるで火が灯ったように、上気したほお。眼鏡の奥の七星の瞳が、まだ残る涙で潤んできらきらと輝いている。
俺の右手を両手で包み込んで、七星は言う。
「嬉しいです。一緒に頑張りましょう、月城さん」
「…拓叶、でいいよ。月城さんなんて、他人行儀だし」
目を逸らして言う俺の耳に、七星の声が届く。
「はい。拓叶さん」
ともだちにシェアしよう!