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10月 part 1-2
「なあ七星。俺さ、西麻布の山本さんや、あの歌舞伎町の桐谷の言ったことを、もう一度考え直してるんだけどさ。
客単価とか、回転率とか、立地とか…そんなんも確かに大事だけど。
それって結局、バーのコンセプトがどうなのかによるんじゃねえかな。俺はいったい、どんなバーにしたいんだろう、って視点がなかったなって。
そこんとこ、真剣に考えないとなって思ってんだよ」
七星は眼鏡を押さえ、真剣な表情を浮かべている。やっぱそこは、七星も悩むとこなのかな。
「…つまり、あれですか?拓叶さんは、媚薬飲まされて強引に迫られるのが好きってことですか?」
「いや強引なのはあんまり好きじゃな……って違うわ!自分の性癖の話なんかしてねえ!
おまえ、人の話ちゃんと聞いてたか!?」
駄目だこいつ。気ぃ抜けすぎだ。頭を抱えてしまった俺に、七星は慌てて言う。
「ごめんなさい、拓叶さん。大丈夫、ちゃんと聞いてますから!
…そうですね。僕もそこは悩んでるとこです。残念ながら、全ての人に向けたバーなんてできません。山本さんや桐谷のように、ある程度客層を絞る必要はあります。
つまり、誰のためのバーにしたいか、ということですよね」
七星のセリフに、俺はほおづえををついて考える。
俺はどんなバーを…誰のためのバーを作りたいんだろう。
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