「…で、拓叶さん。さっきのギムレットなんですが。 ベースとなるジンの『ロンドンヒル』ですが、冷凍した方がいいですよ。…なんかこの話、マティーニの時もしたような気がするんですけど」 「うっ…」 「あと、さらに複雑な香りをもたせるために、『ニッカ・カフェジン』を入れてみましょうか。ピリッとした山椒の香り、柚子や甘夏などのやわらかな柑橘系の香りがプラスされます。比率は、ロンドンヒル45mlに、ニッカ・カフェジンを5ml弱くらい。 ギムレットって、甘みと酸味のバランスが難しいんですよ。だから、とりあえずライムジュースはちょっと控えめにしましょう。で、シェイカー振る前にちょっと味見してみてください。甘ければライムを、酸味を感じたら…シロップもいいですけど、意外といいのは和三盆です」 「和三盆！？」 「はい。ああ、お菓子の和三盆じゃなくて、粉状になってる和三盆糖で、ようするに高級砂糖なんですけど。いいんですよこれが。雑味がなくて、余韻がきれいですから」 あ、なんかお互い、いつもの調子が戻ってきたかもな。俺は七星のおでこに軽くデコピンをする。そして、文句を言う七星の声を背中で聞きながら、再びカウンターに入っていった。