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1月 part 3-1

オーナーを部屋に通し、暖かいコーヒーを淹れて差し出す。 「あの、昨日と今日、無断欠勤してしまってすみません。俺、その…」 怒られると思っていたのに、拍子抜けするほど淡々とした声で、オーナーは語り出した。 「月城。 いいか、人間ってのは、無意識のうちに、思考が行動に現れるもんなんだ。だから、例えば目線の動きで、そいつの考えが推測できる。 オレはまず、みんなの前で、月城 拓叶の現状を話した。そして、月城について、何か知っていることはないかと、皆に聞いた。 月城と、影山 聖哉が廊下で口論していた、という情報が、他のやつから出てきた。だからオレは、影山を個別で呼んで、話を聞くことにしたんだ。 オレが、月城 拓叶について、影山に聞いた時。 影山 聖哉の視線は、まず、オレから見て右上に動いた。これは、過去の体験を思い出している時に起こる。 問題はその後だ。影山の視線は、オレから見て左上に動いた。これは、未知の光景を想像している時に起こる。 実際に起こった出来事を聞いているのに、想像上の世界のことを考えている。それは、どういう事なのか。 …嘘をつこうとしている、という事だ。 オレの質問に合わせて、聖哉の目線は、落ち着きなく、キョロキョロと動いた。過去の出来事を思い出しながら、想像を継ぎ足して、誤魔化そうとしている時の、目線の動きだ。 だから、カマをかけてみた。 人は、自分の話したことを、全て覚えているわけではない。 『おまえ、今、廊下にいる月城に声をかけた、と言ったな。 だがさっきは、月城の方から話しかけられた、と言ってなかったか?』といった具合にだ。 本当のことを言っていれば、話す内容はブレない。だが、影山は動揺し、話す内容が変わった。 嘘だと確信した瞬間だ。 オレが矛盾点を指摘した瞬間、影山の目線は下を向いた。恐怖心の表れだな。 あとは、オレが大音量の怒鳴り声で一喝したら、影山はビビって白状したよ。何だかんだで、これが一番効くんだよな、はっはっは」 豪快に笑うオーナーの言葉に、俺は呆気にとられるしかなかった。

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