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1月 part3-2

オーナーは、コーヒーを一口飲んでから、俺に向かって、ニッと笑った。 「いいか、よく聞けよ、月城 拓叶。 オレの娘はな、おまえと同い年なんだよ。 おまえは、自分のことを大人だと思ってるかもしれんがな。オレにしてみりゃ、まだまだガキだ。 影山 聖哉との(いさか)いもな、オレにとっちゃ、子どもの喧嘩と一緒だ。 ガキが、カブト虫やらビー玉やら駄菓子やら取り合って、ギャーギャー騒いでんのと同じようなもんだよ。いっちょ前に大人のフリして、深刻に悩んでんじゃねえ。 オレはオーナーだ。つまり、ここの経営者だ。 経営者の一番の仕事は、責任をとることだろうが。おまえは、バー・アンベリールのバーテンダーのひとりだ。今は、おまえの人生を、オレが背負ってるんだよ! おまえの努力不足以外のことは、オレが全部責任をとる!ぐじぐじ悩んでるヒマがあんのか! くっだらねえ事はオレに任せて、店内コンペに向けての努力を続けろ!分かったか、月城 拓叶!」 「はいっ!」 背中が反りかえるほど、ぴんと背筋を伸ばして返事をする。と、オーナーが俺の背中を、どんっと叩いた。 「月城、おまえ、明日までにその無精髭、ちゃんと剃ってこいよ。バーテンダーは清潔感が大切なんだからな。 こんな事があったからって、店内コンペ、贔屓(ひいき)したりはしねえぞ。分かったな」 目頭が熱くなる。零れ落ちそうになる涙を必死に堪え、俺は、オーナーに、深く深く頭を下げた。

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