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1月 part3-3

『拓叶さん!?』 ワンコールで、電話に出た七星。電話口から聞こえる七星の声に、ふっと心が緩む。 「悪りい、心配かけたな。もう大丈夫だから。店内コンペにも、ちゃんと参加するよ。 …八つ当たりみたいな事をして、悪かった、七星」 『いえ、僕の方こそ、ごめんなさい。 オーナーに話は聞いています。僕が不用心だったばかりに、拓叶さんに嫌な思いをさせてしまって』 七星のせいじゃないのに。ベランダで冷たい風に当たりながら、七星に言う。 「なあ七星、聖哉を殴ったりはしてないだろうな。意外と短気だから、心配なんだよ、おまえ」 『大丈夫です。聖哉さん、オーナーと一緒に謝りに来てくれましたし。 妄想の世界では、聖哉さんを東京湾に沈めましたけど、現実には何もしてませんよ』 「………お、おう………そうか………」 今、とんでもなく物騒なワードを聞いたような気がしたが、聞き流すことにした。実際には、何もしてないわけだしな。 『今からタクシーで、預かってた拓叶さんのノート、返しに行きます。2月の店内コンペまであと少しです。時間を無駄にはできないでしょう?』 「そうだな。悪いけど、頼む」 昨日今日のロスは痛かった。やらなければならないことが、一気に頭の中でリスト化されていく。だが、面倒だとは思わない。むしろ、気持ちが高揚し、意欲が掻き立てられていく。 「よしっ!」 とりあえず、風呂に入って、髭を剃って、気合いを入れよう。 七星との電話を切り、ふと夜空を見上げると、冬の大三角が輝いていた。

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