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第7話-1

ソーセージは斜め切り、玉ねぎは薄切り、ピーマンは輪切り。トントントン、と規則正しい音をさせながら、野菜が形を変えてゆく。 水煮のマッシュルームを袋から出し、切ったソーセージや野菜とともに、ボウルに入れていく。 紺色のエプロンを身につけ、淡々と作業を進める大輝。ダイニングの椅子に反対向きに座り、背もたれに腕と顎をのせ、俺は大輝が料理しているのを見ていた。 (すげー、かっこいー…) 4月半ばの土曜日。 「じゃあさ、お願いがあるんだけど、悠斗、今度うちに来てくれない?挑戦してみたい料理があってさ、悠斗に試食してもらって、感想聞きたいんだ」 …という大輝のお願いを受け、俺は大輝の家に来ていた。そんなんでお祝いになるのかは疑問だが、大輝がそれでいいのならと、俺は了承した。 大輝にはお姉さんがいるが、今年の春、短大を卒業して就職し、家を出た。大輝の両親は、これで子育ては半分終わった、とばかりに、毎週末いろんなところに出かけているらしい。そんなわけで、家には俺と大輝しかいない。 大輝は料理が好きだ。 前に、料理は科学なんだ、って言ってた。料理の工程ひとつひとつにきちんと理由があり、それらが組み合わさって美味しくできた時、感動するんだよね、と。 おうちデートで一ノ瀬に振る舞いたいのかもしれない。大輝と一ノ瀬がお揃いのエプロンで料理してるところを想像してしまい、俺の心は陰った。 大輝と一ノ瀬はうまく言ってるみたいだ。ふたりで話してるのをたまに見かける。 昨日もそうだ。昼休み、ふたりで会話していた。ほかの人には聞かれたくないのか、わざわざ階段下の、掃除道具入れがある所…人目につかない所で。 4月の初め、始業式の日には、大輝とまた同じクラスになれたことがめちゃくちゃ嬉しかったはずなのに。これから1年間、2人がイチャイチャするのを見せつけられるのかと思うと、気が滅入る。 だけど、今後、大輝からノロケ話を聞かされる日が来たら、俺は笑って聞いてあげないといけないのだろう。

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