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第8話-1 大輝side

目の前に悠斗がいる。 コーヒーとケーキを持って、目の前に立っている。大きな瞳は潤み、眉は切なげに下がっていて、今にも涙が零れ落ちそう。なのに、本人は笑顔のつもりなのか、口角が上がっている。 そんな歪んだ表情が、はっとするほど美しかった。触った瞬間壊れてしまう、ガラス細工のような儚い美しさ。 悠斗が何か言う。日本語なのに、遠い異国の言語のように聞こえる。意味が頭に入ってこない。 悠斗の手から、慎重にコーヒーをケーキを奪い、そっとテーブルに置く。 左手で、悠斗の右手首を掴む。立ち上がりながら、バスケットボールを持つように、右手で悠斗の後ろ頭を抱える。 何も考えられなかった。頭の中も、五感も、全てが目の前の悠斗に支配されていた。 俺は下から掬い上げるように、悠斗の唇に自らの唇を押し当てた。

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