27 / 66

第8話-3 大輝side

8月のある日。まだ朝日も見えないような時刻に、悠斗から電話がかかってきた。 …くーちゃんが…くるみが…死んだ。 寝呆けていた頭が一気に覚醒する。その辺のTシャツとジーンズと適当に着て家を飛び出し、始発の電車に駆け込む。 悠斗の家のチャイムを鳴らすと、悠斗の母親が出てきた。そして聞かされた。昨日、くるみが、押入れの奥でひっそりと息をひきとった事。そんなくるみを発見したのが悠斗だった事。急いで動物病院に連れて行ったが間に合わなかった事。家族みんなで庭に埋めてあげた事。 悠斗の母親は、事情を説明したあと、仕事に出かけて行った。申し訳なさそうに、悠斗をお願いね、と言い残して。 悠斗は部屋の中で、電気もつけずに、ベッドの上でぼんやり宙を見ていた。 俺が電気をつけると、ゆっくりとこちらを見る。あまり寝ていないんだろう。目の下にはくまができ、目の中は赤くなっていた。疲れた顔をしている。いつもの悠斗とのギャップが激しくて痛々しい。 ぽつりぽつりと悠斗は話す。焦点の合わない目で、どこか遠くを見つめながら話す。昨日の事を。そして、どれだけくるみが大事な存在だったのかを。もっとこうしてあげればよかった、という後悔を。 見ていられなかった。気の利いた言葉のひとつも出てこなかった。大切な存在がいなくなるなんて経験は、俺にはない。 …辛かったな。 そんな、ありきたりな言葉しか出てこなかったのに、悠斗は弾かれたように俺の方を見た。目を大きく見開き、固まる。次の瞬間、顔がぐしゃぐしゃに歪み、大粒の涙が零れ落ちた。

ともだちにシェアしよう!