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恋人編 第4話-2
「初めてお会いしたのは、電車の中でした。痴漢にあった私を、助けていただいて…」
「痴漢?」
俺は思い出す。そうだ、4月、大輝が俺のうちに来た日。大人しそうな女の子に絡んでたおっさんを追い払ったことあったな。
「あの時、王子様みたいでかっこよかったんです。それから、電車や学校でお見かけするたびに、どんどん好きになってしまって」
…しまった、どうしよう。どーやって断ったらいいんだ、俺…
大輝とのことは公言してない。知ってるのは一ノ瀬だけだ。さすがに、ここで彼氏いるから!なんて言えないし…
「あの、俺…」
「すみません、付き合えるなんて思ってはないんです。でも、どうしても想いを伝えたくて。
…あの、せめて、お友達になっていただけませんか?」
よかった。これなら断りやすそうだ。俺は、ほっと息を吐く。
「ん。ごめんな、その…今、好きなやつがいてさ。付き合ったりはできないけど、友達なら」
「ありがとうございます」
あー、よかった。ちゃんと断れた。
…と、俺は気づく。ピアノの上に置かれた小さなお弁当箱。もしかして。
「なあ。いつもここで昼メシ食べてるの?ひとりで?」
「はい…」
琴音はぽつりぽつりと話す。1年生の時仲の良かった友達とは、クラス替えで別れてしまったこと。こんな性格だから、なかなかクラスに馴染めず、昼休みにはここに来てしまうこと。
「私、合唱部のピアノ伴奏担当なんです。だから、ついでにピアノ練習もできますし…」
ひとりでいるのが好き、って人もいるけど、琴音の表情見てると、なんか違う気がする。なんていうか、寂しそうで…
「な、昼メシ、一緒に食う?
毎日は無理だけど。週1、2くらいなら大丈夫だと思うし」
「…いいんですか?」
「友達でも一緒にメシは食うだろ。いーよ別に。毎日ひとりごはんは寂しーだろうしさ。じゃ、とりあえず明日、弁当持ってここ来るよ。どう?」
琴音は驚いた顔をした後、花が咲いたように笑顔になった。
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