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第10話-1 瀬戸side

目の前の光景が信じられなかった。 高校1年生のあの日。 背中に「喧嘩上等」の刺繍。 長い丈の学ランを着た、リーゼントの男が、俺をカツアゲしてたやつらを殴り飛ばしていった。 高校1年生の時、俺は、通っていた塾で他校のやつらに目をつけられ、金をせびられる毎日だった。 人一倍ビビリで、身体も小さかった俺は、そんな奴らの言いなりになっていた。情けねえ話だ。 その日も、街のゲーセンに呼び出され、金をせびられていた。そんな俺の目の前に、突然現れたヒーロー…それが竜司だ。まるで漫画の世界に入り込んだかのようだった。 俺のヒーローが同じ高校だということは、すぐに分かった。竜司のやったことは、瞬く間に高校中のうわさになったからだ。笑い話として。 暴力沙汰として、生徒指導の先生に呼び出されてこっぴどく叱られた、という話も聞いた。 嫌われるのが怖くて、俺はお礼を言いに行くこともできなかった。 こんな自分じゃダメだ。俺はもっと強くなりたい。竜司に釣り合う自分になりたい。 筋トレやランニング。男性用のファッション誌を購読し、思いきってアパレルショップへ飛び込む。美容院で散髪し、ワックスを買ってスタイリングする。 今まで自分がしてこなかったことを、いろいろ試すようになった。すると、少し自分に自信がついたのか、人としゃべる時にも、おどおどしなくなっていく。クラスで友達もできた。 だが、竜司に話しかけることはできなかった。その姿を遠くから見るだけで、ドキドキと胸が高鳴り、緊張してしまう。高校三年間、同じクラスになることもなかった。俺と竜司はひとことも話さないまま、卒業する。

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