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第21話

「いーやーだー!!」 「大丈夫だって、僕が手を繋いでいてあげるから。ほら、行こうよ」 金子め、おぼえてろよ! 茅島町立 茅島高等学校は現在、学園祭の真っ最中だ。 うちのクラスは金子の強い希望で、メイドカフェになった。 ……ただし、女装の。 女子は皆バックヤードに引っ込んでしまい、接客係は女装の男子たちだ。 中にはメイドルックが似合ってるヤツもいる。線が細くて色白なタイプだ。 ミニスカートにフリルのブラウス、フリルのエプロン。頭にもフリルのヘッドドレス。黒のニーハイソックス。 俺なんかは最悪だ。くっきりと日焼けして筋肉質。短髪はツンツン立ってヘッドドレスの似合わないことといったら凄まじい。 「ますたー、かわいいですって」 「うるせー。かわいいって言われて嬉しいもんか」 金子は俺の気持ちを和やかにしてくれることなく、昼の休憩に行ってしまった。薄情なヤツ。 メイドカフェは指名制になっている。 教室の入り口にメイドの写真が張ってあり、それを見て客は指名する。 やはり色白くんがダントツトップで、各テーブルを飛び回っている。 俺は朝から一度も指名されずテーブルの片付けやオーダー取りばかりだ。 ほっとしたような気もするが、ちょっとくやしい。 「アイリスさーん、5番テーブルご指名でーす」 アイリスというのは俺の源氏名だ。 5番テーブルを見やると、そこには満面のドヤ顔をした金子と、拓斗がいた。 俺はダッシュで金子の襟首を取っ捕まえると、テーブルから引き剥がした。 「ますたー、私は客ですよ、お客様は神様ですよ、大事にしてください」 「うるさい。お前なんか貧乏神だ。」 「あ! ひどい」 俺は恐る恐る振りかえる。 拓斗はいい笑顔で傍らの椅子をぽんぽんと叩く。 「メイドさん、お願いします」 ちくしょう、金子、覚えてろ。 俺は拓斗の隣に座ると、ぶすくれた声を出す。 「お帰りなさいませ、ご主人様。ご用をなんなりとお申し付けください」 「なんでも聞いてくれるの?」 「いや、一応メニューがあります。どうぞ」 このメニューも金子が獅子奮迅の態で作っていたものだ。 「なに、これ。おしゃべり、ゲーム、お持ち帰り?」 「はい。どれになさいますか?」 「ぜんぶ」 「はい?」 「ぜんぶお願いします」 拓斗の懐の広さが垣間見えた。 「おしゃべりは15分、ゲームはオセロ、お持ち帰りに制限時間はありません。というか、選ぶヤツがいるとは思わなかったけどな」 「私はきっといると思ってましたよ!!」 金子が両手を握ってキラッキラした目をする。 お前の意見は聞いてない。 「それじゃメイドさん、おしゃべり、しようか」 「っても、いつもしゃべってるだろ」 「だめだめ、そんな話し方じゃ。ご主人様怒っちゃうよ?」 金子が身悶えている。くそっ。 「ご主人様、何をお話しましょう?」 「そうだねー。今日の指名は何件入ったの?」 「……まだ一件目です」 「ほんとに? じゃあ僕が一番乗りだね」 「空前絶後のご主人様だと思いますよ」 「あははは。なんかすごそうだね」 拓斗相手に敬語を使うのに慣れなくて、たびたび金子からツッコまれたが、何とか15分を耐えきった。 「ではご主人様、オセロをしましょう」 「はい。ねえ、勝ったら何してくれる?」 「ご主人様、当店ではそういったサービスはない……」 「おさわりOKになります!」 横から金子が口を挟む。 「勝手に決めてんじゃねえよ!!」 「わ、私はこの店のプロデューサーなんですから! 一番えらいんですから!」 悔しいがその通りだ。 そうだ、勝てばいいのだ。勝てば問題ない!! 「手加減なしですか、ご主人様」 「当たり前でしょ?」 オセロはもちろん拓斗の圧勝だった。頭を使うゲームで、俺が拓斗に勝てるわけがない。 「じゃ、さわるねー」 爽やかに宣言して、拓斗が俺の太ももをさわさわする。爽やかセクハラだ。金子が目を皿のようにしてこちらを見ているのが癪にさわる。 「あの……ご主人様……」 「ん? なに?」 「あんまりさわられるとっ!! ちょ、やめ……」 拓斗がミニスカートの中に手を突っ込んできた。俺は必死でその手をどけようともがく。 「あはは、冗談、冗談」 冗談じゃない、しっかりさわったじゃないか!! ちくしょう、金子、見つめるな!! 「じゃ、お持ち帰りしよっかな」 「ほんとにするのか?」 「もちろん」 「……俺、この格好で外歩くわけ?」 「かわいいよ」 かわいいわけあるか! しかし、俺の心の叫びは、プロデューサー命令という名の横暴により封印された。 「1年B組、メイド喫茶やってまーす」 俺と拓斗が手を繋いで歩いている後ろを金子がビラを配りながらついてくる。ただでさえ人目をひくのに、これじゃ針のむしろだ。 俺は恥ずかしさに顔をあげられず、拓斗の背中に顔を埋めた。 周りからカメラのシャッター音が次々聞こえる。 もう、どうにでもしてくれ! 「ついたよ、メイドさん」 「……ここ?」 「うん。一緒に入ろう」 にっこり笑う拓斗、ひきつる俺。 「嫌です」 「私もちょっと……」 金子がじわじわと後退する。俺もそれに乗っかって、そっと逃げようとしたが 「大丈夫、大丈夫。手を握っていてあげるから」 「いやだー! 金子ー戻ってこーい!!」 「無理ですぅ! 私、お化け屋敷だけはダメなんですぅ」 「ほらほらメイドさん、いくよー」 朗らかに言う拓斗にお化け屋敷に引きずり込まれる。 ちくしょう、金子!! 覚えてろ!! 2年D組が総力を結集して作り上げたこのお化け屋敷は、すごいと朝から大いに噂になっていた。 なにがすごいかは、誰も話さない。ただ、数人の生徒が気を失って保健室に運ばれたらしい。 噂になっていたわりに、この教室の周りには誰も居ず、並んだりもしていない。あれはデマだったのではないか?と安心しかけた。 のだが、教室の中は真っ暗。自分の鼻も見えないと言うヤツだ。 俺は拓斗にしがみつく。「まだ暗いところ怖いんだね。大丈夫だよ。一緒にいてあげるから」 拓斗の声だけが俺の耳に落ちる。外の喧騒はちっとも聞こえない。 まるでどこか異次元にでも飛ばされたみたいだ。 俺たちは手探りしながら進む。 通路は狭く、何度も曲がり角がある。そのたび、角から何か飛び出してくるんじゃないか、落とし穴があるんじゃないか、とびくびくして、拓斗の腕に顔を埋めた。 そのたび拓斗は「大丈夫だよ」と背中をぎゅっと抱き締めてくれた。 けれど、俺の足はぴたりと止まり、動かなくなった。 拓斗の腕を両手で握り、引き寄せる。拓斗は俺の隣に来ると、くるりと俺の体の向きを変えさせる。 「なに……」 ぐっと抱きすくめられ、唇を塞がれる。 「……!」 拓斗の手がスカートの中に差し込まれる。 俺は必死にもがいてその腕から逃げ出そうとするが、拓斗のもう片方の腕が俺の肩をつかんで離さない。 拓斗の手が太ももを揉む。さわさわと尻に手が向かう。 拓斗の手が動くたび、スカートがひらめいて脚に風が当たる。それはとても不安な気持ちにさせるもので。俺は心底こころぼそくなって。 俺はその不安を払ってほしくて拓斗の体にすがり付く。 拓斗は俺のスカートを捲って、下着の中に手を差し込む。 素肌に拓斗の暖かい体温が心地いい。俺はゆったりと目を閉じた。 「落ち着いた?」 「うん」 「歩けそう?」 「大丈夫」 拓斗は俺の手を引いて歩き出す。 通路の先にぼんやりと薄明かりが見える。 出口だ!! 俺は拓斗の手を引いて走り出そうとした。その時―。 閃光が目を焼いた。 「きゃーあぁ!!」 俺の口から、メイドらしい悲鳴が飛び出した……。 「まあ、そんなに気を落とさないで。ほら、この写真、よく撮れてるよ」 拓斗がひらひらと振ってみせるポラロイド写真には、俺の絶叫した姿が写っている。 すごいお化け屋敷の真相はこうだ。 教室を真っ暗にして、通路を最後まで進ませる。 何もないと油断したところを写真に写す。 これだけだ。 これだけだが、確かに死ぬほど怖かった。 お化け屋敷がぜんぜん平気な拓斗でさえ、少しだけビックリしたらしい。 そんな簡単な仕組みだから、一度入ったら二度と入らない。だから、あの辺はがらんとしていたのだろう。 お化け屋敷の出口でパニックを起こしかけた俺は、拓斗に連れられて、科学準備室に来ていた。 紅茶を淹れてもらって、やっと人心地ついた。 「それにしても、かわいかったな」 「なにが?」 「僕のメイドさんが。ぷるぷる震えて抱きついてきて……」 「ばっ、やめ……」 「うん? なに? ご主人様になにか言った?」 俺は、ぐっと言葉を飲んだ。 「いい子だね、アイリス。こちらへ来て、僕の膝に座りなさい」 抗うことはできた。メイドごっこなんか終わりだと言えばそれで良かった。なのに。 俺は拓斗の言うがままに膝に座った。 俺のスカート越しに硬いものが脚に触れる。 「わかるかい? 君があんまりかわいいから、僕はこうなっちゃったんだよ」 俺はこくりとうなずいた。 「だめだめ、きちんと言葉で返事しないと。『わかりました、ご主人様』だよ。言えるね?」 「わ、わかりました、ご主人様」 「よし、いい子だ」 拓斗の手が俺の髪を撫でる。 そのまま、その手は俺の背中を下り、ミニスカートの裾から差し入れられ、太ももへと滑る。 拓斗の手がフリルのブラウスのボタンにかかる。片手で器用に開けていく。三段ほど開けただけで、その隙間から手を入れ、俺の胸をいじる。 「残念。下着はつけてないんだ」 「っつ。当たり前だろ……」 「ほらほら、言葉遣いがなってないよ。そんな子にはお仕置きだね」 拓斗は俺の胸に這わせていた手で、突起を強く捻りあげた。 「ー―っ!!」 声にならない悲鳴が沸く。 「ほら、ごめんなさいは?」 「ご、ごめんなさい……」 拓斗はまた胸に刺激を与える。 「ごめんなさい、ご主人様だよ」 俺は息も絶え絶えに答える。 「……ごめんなさい……ご主人様」 「よし、良くできた。これからは返事をするときは『ご主人様』をつけること」 「わ、わかりました、ご主人様」 「よろしい。ご褒美をあげよう」 拓斗は俺のうなじに唇を落とす。 「ひぁ!!」 片手はニーハイソックスの履き口をなぞり、片手は俺の胸をいじる。 気持ちよすぎてぞくぞくして、背が弓なりに反る。 脚に当たっている拓斗のものは、ますます硬くなっている。 「じゃあ、次の命令だ。机に手をついて腰をつき出しなさい」 何をされるか想像して、俺の顔が朱に染まる。 「は……い、ご主人様」 なんとか声を絞りだし、言われた通りに腰をつき出す。拓斗はゆっくり近づくと、俺の尻に両手をかける。スカートの上から、やわやわと尻を揉む。 いつまでも変わらぬ動きなのだが、俺はだんだん高まってきて、もぞもぞと腰を振ってしまう。 「どうしたの、アイリス? 言いたいことがあるなら、言ってごらん」 「ご主人様、ご主人様……」 「なんだい?」 拓斗が俺の頬を撫でる。俺はどうしていいのかわからなくて、涙をこぼす。 「ああ、いじめすぎちゃったね。メイドさんがあんまりかわいいから」 拓斗は俺の頬に軽いキスをして、涙を舐めとってくれる。 その両手はスカートを捲り、俺の下着を下ろす。 「片足をあげて」 俺は言われるがままに従うと、拓斗はもう片方の足も上げさせ、下着を脱がせてしまった。 ミニスカートははだけられ、ニーハイソックスは履いたまま、腰をつき出している俺の姿を、拓斗は少し離れたところから眺める。 「ああ、だめだ」 呟くように言うと、拓斗は俺の腰を押さえ、そのまま入ってきた。 「ひぅっ!!」 ビクリと体が跳ねる。 拓斗は勢いよく抜き差しする。 「あっあっあっ……」 短いスパンでやってくる快感の波に洗われ、俺は喘ぎ続ける。 「は…あ……」 拓斗が耳元でため息をつく。 その感触にぞくりとして、俺の中がきゅうっとしまる。 「ああ……そんなに締め付けて……。君も我慢してたの?」 「……はい、ご主人様」 ぴたり、と拓斗の動きが止まり、ぎゅっと抱き締められた。そのまま、拓斗が耳元でささやく。 「ご褒美をあげるよ」 拓斗は俺の腰を突き上げた。 「っぁ!」 俺のうなじを噛み、舐めていく。 「ぁん、あ……」 拓斗が俺を支配する。俺は拓斗の言う通りに従順に大人しくにっこり笑っているんだ、そうしたら拓斗がご褒美をくれる……。 俺の妄想を打ち破るように、拓斗が強く俺を抱く。 一層強く捻り込む。 「あああっ!!」 「―っ!!」 俺の中に拓斗がいっぱいに広がった。 お代わりの紅茶を飲みながら、俺は拓斗に聞いてみた。 「なあ、メイドなんだから、俺が紅茶を淹れるんじゃないのか?」 「淹れてみたいの?」 「いや、そういうわけじゃないんだけど…」 拓斗はゆったりと笑う。 「いいんだよ。僕がしてあげたいんだ。僕は君の下僕だからね」 「げぼく……。なんだ、そりゃ」 拓斗はただ、柔らかく笑うだけだ。 「それにしても、お持ち帰りしてくれて助かったよ。おかげで放課後までここに隠れていられる」 「いいね」 「うん」 紅茶の香りがあたりにただよう。 秋の西陽が斜めに差し込む。 拓斗の栗色の髪が光に透けて黄金に輝く。俺はただ、その光景にみとれる。 いつまでも、ここでこうしていられたら……。 チャイムがなる。 俺たちは立ち上がる。 別々の場所にもどるために。 「じゃあ」 「ああ、またな」 「ねえ」 「うん?」 「かわいいよ、メイドさん」 拓斗が真面目な顔で言う。 俺も度がつくほど真面目な顔で答える。 「ありがとうございます、ご主人様。」 どちらからともなく、笑う。 そうだ。 俺たちは今はこのくらいでいい。 このくらいがいい。 そう思う。 軽く手を振って、お互いの場所へ帰る。 振り返らない。 振り向かない。 今日も明日もいつでも会えるんだから。 でも……。 それでも俺は離れがたくて、 でも振り返れなくて 窓のそと、夕陽をながめた。

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